第12話 奇跡の燃料(2)
(まあ、光魔法だよなあ。総理大臣としても、勇者としても)
光二は総理大臣である。地方の首長とは違い、全国民の代表である。なので、国民全ての生命と財産を守る義務を負う。従って、一部を切り捨てる選択肢よりは全部を救う選択肢の方が望ましい。
そして、もし国民が総理大臣の決断を信頼できないならば、それは国民が悪い。
なぜなら、総理は民主主義政治の帰結として選ばれたのであり、国民に代表を選ぶ権利は与えられていた以上、責任逃れはできないからだ。
また、その決断は光二の個人的な趣向とも一致していた。
ローリスクローリターンと、ハイリスクハイリターンの選択肢があった時、『勇者の光二』は常に後者を選択してきた。世界を変えるにはそれだけの決断が必要だった。
光二の決心を支持するかのように、聖剣は輝きを増している。
「光魔法を使う。まず、メディアへの広報は園田、お前がやれ」
「うっす。実は、さっき総理が魔物をぶっ殺してるシーン、こっそり写真とショート動画に撮っておいたんで、公式SNSに上げますね。なんなら生配信もしましょう。信頼度が増しますよ」
光二は、園田に公式アカウントの運営を丸投げしていた。
特にチェックしてないから詳しくは知らないが、意外と若者ウケはいいらしい。
「本郷、避難マニュアルを作れるか? 二年前にお前と作った同人誌――『空想防衛読本』の二章をちょっといじればそのまま使えると思うんだが」
まさかお遊びで作った同人誌を流用することになるとは思わなかったけど、現状提案できるベストな作戦だった。
マニュアルがあってもどうにもならないかもしれないが、ないよりはマシだろう。
リスク回避の論理で動いている官僚組織は、いざという時の責任を上に投げられるというだけで、格段に動きやすくなる。
「とりあえず、自衛隊用と警察用のマニュアルはできてます。chatGPT様様ですね」
本郷が画面を見せてきた。
タイトルは『侵略的生命体対処マニュアル ver2.0』
ご丁寧にAIが自動生成した、光二が虫に斬りかかっているポーズの表紙絵までついている。
「さすがだな。――各所への根回しは、三島、どうだ?」
「陸は任せてくだせえ。海と空のコネは陸にゃあ劣りますが、総理の命令に従わせるくらいはどうってことありやせん――公式の命令書があるとありがてえですが。予備自衛官も招集しなきゃならねえと思うんで」
「ああ、それは大丈夫だ。いくらでも創造魔法で作る」
「ならなんの問題もありませんな。ツケがたまってる奴が多いんで、退職金代わりに耳そろえて返してもらってきまさあ」
三島は防衛大出のキャリア官だが、部下の不祥事を庇い、出世ルートを外れたのだという。
いつも泥をかぶり続けて、最終的に光二の下に流れ着いた。
そして、彼が庇った人間は不思議と出世するというジンクスがある。
三島はそういう男だった。
「よろしく頼む。他の護衛もお前らで相談して適宜使ってやれ。――ルインは一旦戻って、残党狩りのメンバーを編成してくれるか、光魔法で空の敵を一掃したら地上戦に移る。ついでに、俺と一緒に戦う姿を見せて、日本国民にパルソミアが味方だとアピールする」
やると決めた以上は成功する前提で動く。
失敗した場合はルインと二人で――場合によっては護衛も連れて――異世界に逃げるだけなので簡単だ。
「ふむ。となると、ゲートの耐久性の都合上、こちらに連れてこられる人員は少数精鋭とならざるを得ない。その場合、敵への有効性が確認されている光魔法の使い手が中心となる。つまり、それらが得意な聖騎士団が主力になるが、それで構わないか?」
ルインは理路整然と言う。
光魔法は別に光二の専売特許ではないが、使える人間は限られている。
「ああ。でも、できれば聖女は呼ぶな」
「はは、それは無理だろう。絶対来たがるし、アレなしでは聖騎士団を統率できない。コージの次に光魔法が得意なのは奴なのだから」
ルインは肩をすくめて苦笑する。
「あれから、だいぶ経ったんだし、あいつも大人になってちょっとはまともになったりしてない?」
光二はわずかな期待を込めて尋ねた。
「なってる訳ないだろう。むしろ、コージが姿を消したことで、より一層、勇者の神格化が進んでいる。その分、強くなっているとも言えるが」
「……しゃあねえか。背に腹は代えられないしなー」
光二は苦虫を嚙み潰したような表情で頷いた。
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