【ほん怖】お通夜の線香が消える時

美杉。節約令嬢、書籍化進行中

第1話 階段を駆け上がる足音

「ねぇ、今さ……確かに音……したよね?」


 振り返った姉が、固まったまま階段の方を見ていた。

 もう時計はてっぺんをゆうに超え、誰かがココに上がってくるとはとても思えない。

 

「あー、ほら、交代かな?」


 私は引き釣った笑みを浮かべながら、姉と同じ階段に視線を向けた。

 この二階へ上がる階段の前には障子があり、それを開けなければ見ることは出来ない。


「でもさ……」

「……うん」


 言わずとも、姉の言いたいことは分かっていた。

 だって音は階段の中ほどまでで、ピタリと止まったから。


「見て来なよ、愛菜まな

「ヤダよ。おねぇが見て来てよ」

「嫌だよ。そういうのは妹に譲るわ」

「はぁ? 年功序列で、おねぇが行ってきてよ」


 こんな時間のこんな場所で、階段の途中で止まったを見に行けるほどの勇気なんてない。

 

 何でよりによって、今この状況でこんなことが起こるのか。

 ううん、そうだね。

 今ここだからこそ、なんだろうなぁ。

 諦めにも似た納得感がある。


「無理だって。だってさぁ、絶対にそうだよね」

「んんん。ほら、もしかしたら誰かがふざけてるのかもよ?」

「こんな時にこんなとこで、ふざける人間がどこにいるのよ!」


 姉はすぐ後ろを振り返った。

 後ろには真っ白な棺桶の後ろに、たくさん花が飾られている。

 そう、今日は祖父の通夜で、私たちは寝ずの番をさせられていたのだ。


 本来だったら番をするはずだった母たちは、通夜の席で酒を勧められたせいで寝てしまっている。

 明け方交代に来るなんて言っていたが、正直私たちはあてにもしていなかった。


 そんな中、急に誰かが階段を昇って来る足音がタンタンタンとテンポよく聞こえてきた。

 階段は全部で30あるかないか。

 窓はなく、そこから外に出ることは出来ない。

 なのに半分を少し過ぎたくらいまで聞こえた足音が、立ち止まったかのように止まった。


 すでにその音が止まって、数分経っている。

 しかも待っていてもその聞こえてきた足音は、昇ることも降りることもしない。

 

 だから普通で考えれば、階段の途中で誰かがすでに数分立ち止まってるということになるはず。

 なるはずなんだけど――


「まぁ、そうだよね……。あり得ないよね」

「……うん」


 真冬のこんな時期に、階段の途中で止まって何になるというのだろう。

 驚かすにしても、質が悪すぎるし。

 いたずらをするような子どもも、今は家にいない。

 

「気持ち悪い」


 私がそう言うと、一度私を見て眉間にしわを寄せた。

 そしてそのまま何も言わずに立ち上がると、勢いよく障子を開けたのだった。

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