第22話 海底神殿の謎

 潜水艇は二艘増えて、海の上に漂っている。

「海ってきれいだね、いつまでも見てられる」

ボルクがハッチから頭を出している。火星に水溜まりはなかった。最初はこの大量の水に恐怖さえ感じた。

「見てご覧よ、このあたりだと今日はカストルと僕、ヒジュとゆず、ライラとリゲルが乗り込んでるよ」

カストルは皆んなに潜水服を身につけるように指示を出していた。

「目標を見つけたら潜ろう、潜水艇よりも行動しやすいからな」

「だけど武器がないよ。昨日の影が人だとしたら、僕たち狙われるだろ」

「ボルクだから潜水艇で安全を確認するんだ」


 ボルクは武器がないなら、潜らないとヘソを曲げた。

「ボルク、カストルと一緒なんだし、君は学者だろ武器なんか必要ないよ。ライラと僕が治五郎さんから借りた水中銃を携帯する。銃と言っても発光弾だ、目眩しだよ。殺傷能力はないんだ」

 ヒジュが潜水艇から2丁の銃を取り出した。


「殺傷力がないならいいよ。それなら構わない」

 カストルとライラが顔を見合わせた。ボルクが拗ねたらテコでも動かない。


 実際目の前に神殿が現れると、石の巨大さに驚いた。地上にあった建物だと昨夜ボルクは言っていたが、どうすれば海底に沈むのだろう。


 潜水艇が浮上してハッチからカストルが外に出た。ボルクは出て来ない。ライラとヒジュたちはそのまま潜水艇で神殿の外観を測量しながら巡ることにした。ボルクはカストルの後ろについて潜水してきた。


カストルから光線銃が発射された、なるほど、つまり信号弾なんだ。

ライラはカストルのいた位置まで艦を進めた。


 壁面に記号が刻まれている。これが神代文字なのか、ボルクに見せられた渦巻き状の文字とは違う、直線に十個ほどの記号が刻まれている。

「リゲルもっと記号を探そう、ボルクが読めるくらいデータが集まるといいけど」

「見てよ、ライラ影だよ、あの柱の裏」

「あっ、あれはグレイじゃない?」


「まさかグレイが海底遺跡に潜んでいるなんて」

「トールグレイじゃないなら、ただの監視だろ」

リゲルはジェスチャーでカストルに浮上を促した。カストルは無視して、さらに深度を増した。


「カストル、グレイは何をしてるんだい?」

「火星の奴らと同じさ、単なる見張りだ。だけど神殿の中に侵入口がある。もしかしたら、海底に巣があるんだ。地球には、いや、このエリアは奴らの基地になっているかも知れない」

「たった一体見ただけだろ、基地は考えすぎじゃないか?」

「それより、グレイは潜水服を着ていなかった。水陸両用か?」

「グレイは火星でも宇宙服を着てなかったよ」

「まったく不気味な奴らだ」

カストルが吐き捨てた。

「意志をトールグレイに操られている、トールグレイの奴隷には本当に意識は存在しないのかなあ」

ボルクはぼんやりとつぶやいていた。


「とりあえず今日の成果はあったね、明日からの計画を練ろうよ」

「僕は画像の文字を分析する、忙しいんだ」

 ボルクはオモチャを手に入れたように、ログハウスに引きこもってしまった。


 飛田組は巨大なシールドマシンで火山の下を掘り進んでいた。福江島の地下に、ほぼ同じ面積の平地が作られた、支えているのは、貯水ドームと同じ構造のドームだ、柱が電柱じゃないことが残念だった。


 せめて海底神殿と同じような巨石の柱を希望したが、今の科学を持ってしても、一ヶ月やそこいらで石積みは造れない。最先端の工法を取り入れるしか選択肢はなかった。


「人口二万人までは居住可能だな」

「すごいや、で、だれが移住するの?」

「次元上昇をしたくない、地球を守りたい人類だよ」

「ボルク、大きく出たな、募集方法を探らなくちゃならないな」

 九州の離島の地下に一号都市が作られた。


「宇宙からの侵略者から逃れて、今の文明を継続する基礎を作るんだから、実力がある者を招かないと、それに秘密を厳守できる者、火星開発移民団よりはるかに安全だけど」


「そらまめ、きんとき、ゆずにリストを作らせてみたいんだ」

「そうだね」

カストルの考えにライラが賛成した。

「ガイヤに任せるよ、飛田組は象徴となるような建造物を建てる、しばし時間が必要じゃ」


 プロジェクトはガイヤに丸投げされてしまった。地下ドームの内政は慣れている飛田組が引き受けた。


「超古代文明って、次々に滅ぼされて行ったけど、ボルクは信じているんだろ」

「あったさ、滅びた原因は地球外生命体の力だよ、だけど、日本だけが滅びた歴史がないと思っていた」

「ボルク、なんで過去形なの?」

音楽を聴いていたチップスが口を挟んだ。

「だって、あの海底神殿を誰が作って、誰が海中に沈めたの?」

「日本の文明も一度は滅びだってことよね」


「高い建物があり、想念の力で会話をし、海外との交易が盛んで、空も飛んでたか、瞬間移動や時空移動をしていたんだ。もしかしたら、世界中に高度な文明があった。なにかで統一された巨大な都市国家があったのかも知れない」

「シリウスが作ったと言いたいんだろ」

ヒジュがボルクを睨んだ。

「ヒジュ、止めてよ、ヒジュはシリウスじゃなくて、ガイヤなんでしょ」

「そうだった、混同しているのは僕なんだ。ガイヤが回避するんだよ」

「だけど、シリウスなら高度文明を破壊する力があった」


「そうだね、シリウスの自由にはさせないよ。火星の移住は間違いだった、シリウスたちも離れる寸前だ」

「火星撤退計画ならまだしも、火星放置計画だ。シリウスたちも呆れるよね」

「ヒジュはシリウスの見方なのかい?」

カストルが怪訝な顔をした。

「地球人たちは、シリウスたちが見放すようなことを次々しでかすから、破壊するしかなかったのかもね」

多分カストルの意見は、ガイヤそれぞれの意見だと思って間違いない。それぞれが深く思考を巡らせていた。


 海底遺跡の古代文字を読み解いていたボルクが、海底神殿の隠し扉を見つけた。神代文字からのヒントで、巨石の隙間に彫られた記号が火星の地下都市に通じていた記号と一致すると言う。


「やっぱりね、僕たちより先に海底神殿を見張っていた」

「僕が調査に向かう、カストルいいよね」

「ああ、俺も行く、見てくるだけだから、そんな顔をするなよ」

 ライラが顔を歪めて二人を交互に見ている。

「ライラ、心配なら僕たちも行こうよ」

 ボルクが気を効かせた。ボルクとライラは入り口まで一緒に行って待機することにした。


「皆んなは電柱シティで情報を収集するんだ。不安や不満を集めて来て、チップスとミーシャは飛田組で遊んでおいでよ」

「わかったわ、お婿さんでも探してくる。飛田組の若い衆って素敵だわ」

「ミーシャがはめを外さないように、私も行くよ」

 リンダのほうが危ういようだ。三人がいつもより派手に化粧をしている。


「できれば飛田組で地下ドームの完成状況とか、仕入れて来てよね」

 ゆずがモニターから振り返って声をかけた。その隙にボルクとリゲルは牧草地に動物たちを放牧している。


 それぞれが身支度を整えて出て行くのを、そらまめときんとき、ゆずがいちいち見送る。

「さて、みんな出かけたし、僕たちは優秀な住人となる人たちのリストアップをしよう」

「地球の次の歴史がここから始まるからね、世界の優秀な人材を2万人選び出す」

きんときがさっそくため息をついた。


「なにをデータベースにする? 」

「さまざまな分野で、既成事実に捉われいない、そして縁故が少ない、出来れば家庭を持たない方がいいよね」

「たとえば、武器のスペシャリストとか、軍事戦略にたけている人、宗教に詳しい人、そして、男女比や年齢の偏りを調整する。人種は考慮する?」

「ノアの箱舟じゃないんだから、基礎を作る者を探すんだ。それにこれは始まりに過ぎない。人種や国の所属なんか関係ない方がいいよ」



 今朝の海は穏やかだった、この付近は潮流が早くて同じ所に停泊するつもりなら、ずっと計器から目を離せない。


 カストルとヒジュはポイントに到着するとすぐに船体を沈めて行った。たかが十五mである。ボルクはヒジュとカストルに調査を任せると言っておきながら、いちいち話しかける。

「カストル、カメラ右手の壁に向けてよ、ライトを上向きにして、ほら文字が刻まれている。その角を曲がるんだ、その壁面の標。あった、そこが入り口なんだ、縦坑はあるかい?」


カストルが二重ハッチから外に出た。

「ボルク、扉になってるから、船で押してみるよ」

カストルが船にもどり、確認したあたりに進んだ。

あっさりと通過した。なんの抵抗もない。

「プロジェクターで投影されたドアだよ、なにもない、このまま進むよ」


「明らかに地球人の掘った穴じゃない、ここはまるで滑走路だ、真っ直ぐな平面の床が続いている。少しずつ深度が増している」

「カストル、多分その先に奴らがいる。あっ、シリウスだよ、後ろ姿だけど間違いなくシリウスが十m先で消えた」

「もういいよ、今度は神殿の外観を見たい」

「待てよ、シリウスは地球では幽体で活動しているんだな。どれくらい入り込んでいるんだろう」

「地球人と同じ人数だけいたりして」

「海の中だとクラゲ見たいだ。形が分かる、ほら、ヒジュ気味がわるいよ」

「ボルクが何かしら考えてるんじゃないか? ボルクも最近一人でごそごそ動いてるね」

「ボルクは子供と同じ、純粋だからキズつけないでくれよ」

「カストルはまるで父ちゃんだね」

「世話を焼き過ぎて怒らせるけどな」


「二人ともお帰り」

「ボルクはずっと海面を見つめていたんだよ」

「だって、シリウスを見た気がしたんだ」

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