第5話 気がついたら猫ではにゃい。

 フェンリル達に追われる間、私は気配を殺しつつイノシシから獲得した魔石だけを舐めた。


(経験値がうなぎ登り!? イノシシって私の知らない何らかの戦いを、経験しているの?)


 経験しているというより、それがあるから二〇〇オーバーのLvだったのだけど。

 気がつけば眠気に襲われる事もないまま私のLvはLv一〇〇まで跳ね上がった。


(一気に五〇もアップした!? とんでもない上昇率ね。ただまぁ、短期間に一〇〇まで到達したならあとは早々上がることは無さそうね)


 どうもここからが、魔物としてのスタートラインに立ったような気がしたからだ。先のフェンリルが少々特殊なだけで、この森に過ごす魔物は若い個体でも上がる者は上がるからだ。

 ただ、その年齢も完全に信用出来るかどうかは微妙なところだけど。魔物の生態に詳しい訳でも無いし、鑑定結果で知るしか出来ないし。


(自分自身の事ですら知りようがないものね)


 どういった種族なのか。

 どういった魔物なのか。

 単純にネコ科の魔物とは呼べない特殊な固有スキルが複数あるからね。私の眼に宿る魔眼も冗談抜きでチートでしょうに。これが種族特性となれば、とんでも生物に他ならないだろう。

 その固有スキルを有効活用した結果、


 ────────────────────

 名前:コネコ 性別:メス 年齢:生後八日

 種族:ホワイト・ピューマ(魔物/成体)

 Lv:一〇〇

 経験値:〇〇〇一/一〇〇〇

 体力:一〇〇〇/一〇〇〇

 魔力:一〇〇〇/一〇〇〇

 器用:B 運気:B 知力:S 精神:A

 スキル:疾走/A 木登り/A 穴掘り/B

     範囲警戒/A 収納/A 統合/A

     解放/E 武術/F 隠形/C

 固有:魔眼(鑑定・石化・簒奪/S)

    体力自動回復/A 魔力自動回復/A

 簒奪:風魔法/C 水魔法/C 土魔法/C

    炎魔法/F

 耐性:毒無効(○) 魔法攻撃/F

    物理攻撃/F

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 オークと大差ない体力を手に入れた。

 魔力も同程度あり、フェンリルなら瞬殺出来そうな気がした。それでも私は大変臆病な猫なので、これでも万全ではないと思っている。


(というか気配を殺している間に隠形が生えているわね。しかも取得して直ぐにランクが上がっているから、簡単には察知されないかも?)


 そうなるとフェンリルの知覚は完全に誤魔化せるだろう。


(だとしても、イヌ科も同然だから嗅覚が無駄に優れていそうよね)


 そう思った瞬間、


(うん。予想通り嗅覚が優れているわね?)


 私が隠れる木を目指して木々の隙間を縫うように匂いを辿ってきたから。それも複数の部下を引き連れて、意識を共有しているかのように一つの目標に向かってきた。


(さてさて気づかれるかどうかは主次第かな)


 私が隠れる場所はここらの主がテリトリーとしている場所の直ぐ隣だ。あちこちに駆け回ってオークやらゴブリン共の魔石を拾っていたのは匂いを各所に残して混乱させるためにある。


(そうそう。そこを真っ直ぐ進んでね・・・)


 私は監視を継続しつつフェンリルが一定ラインを越えるまで待った。匂いを追う事に夢中になったフェンリル。その先に居るのは主のみ。

 事前に範囲へと被せるように木々を飛んだからそちらに匂いが残っているはずだ。今は風魔法の空気塊の中に浮き、水魔法の水泡を身に纏って匂いが漏れ出ないようにしているけれど。


(はい! ヒット! 主の敵意がフェンリル共に向かったわね。私が倒しても良かったけど、数が数だものね。総数は二八匹。一匹は既に倒しているけど、こんな物量は私でも無理だわ)


 一対二八。囲われたら、終わりである。

 群れる狼と孤立の猫。いざ、戦いとなったら勝つのは数で襲い来る、狼だけとなるだろう。

 ちなみに、ここら一帯の主は、


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 名前:なし 性別:メス 年齢:一〇〇〇

 種族:ミスリル・スパイダー(魔物/成体)

 Lv:三五〇

 体力:三五〇〇/三五〇〇

 魔力:三五〇〇/三五〇〇

 スキル:糸操/S 糸成形/S 魔力糸/S

     魔力視/S

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 体長一〇メートル程の大蜘蛛の魔物である。

 鑑定結果でも分かるのは、糸そのものがミスリルであることが由来のとんでも魔物である。

 その糸を自在に操って領域形成しているらしい。糸成形とは糸で繭を作る時に使うようだ。

 魔力糸は見えない糸で相手の自由を奪うみたいね。それに付随するのが魔力視と。魔力が見えなければ、飛ばすことすら不可能だものね。


(鑑定結果を認識すれば、説明文が見えるようになったのは、Lvが上がったお陰かしら?)


 それでも情報過多なので一つ一つ選ばないと気持ち悪くなるが。多すぎて情報酔いしそう。

 しばらくすると魔力糸がフェンリルの身体。

 首筋の神経へと魔力の糸が突き刺さった。


(身体の自由が奪われたわね。あとは繭玉を作って最後は餌と成すと)


 私の場合、魔眼で見ると鑑定の効果なのか普通に視認が出来た。一時的にテリトリーに被った時も影響しない場所をそれで選んだからね。

 フェンリル共は全て捕獲され大蜘蛛の餌となった。とはいえ、そのままだと私も捕獲されかねないので大蜘蛛に気づかれぬ内に全てのスキルを簒奪した。その直後、大蜘蛛は唐突に繭玉作りが出来なくなってバタバタと暴れた。


(大混乱している? それもそうか、生き抜くためのスキルだものね)


 私は隠形したまま大蜘蛛に向かって石化を行使した。大蜘蛛は一瞬ではないものの手足だけが石へと変化していった。胴体は中身が何かに使えると鑑定結果に出たので残した。


(このまま胴体の魔石を・・・回収!)


 大蜘蛛は魔石が無くなった事で死亡した。

 獲得出来たのは二メートル台の大魔石。

 今回の石化は限定的だったので手足も死亡と同時に元に戻った。私は全ての魔法を解除すると同時に地面へと降りる。そして大蜘蛛に近づいたのち収納スキルに片付けた。


 ────────────────────

 ミスリル・スパイダー

 (銀鉄袋・手足/八本・大魔石)

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 片付けた後、解体が終わったので中を見た。


「銀鉄袋っていう素材が糸の原料なのにゃ?」


 何に使うか微妙だったが、糸操と糸成形を用いれば、何らかの防具が作り出せそうだったので収納に統合しておいた。ランクは下がらなかった代わりに別の表記が増えていた。


 ────────────────────

 衣類生成:衣服、下着

 防具生成:糸鎧、糸兜

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 それは一体何に使うか不明過ぎたが、追々試してみようと思った。


(というか猫の身体で衣服とか下着って意味がない気がするのだけど?)


 ちょっとした疑問もあったがフェンリルが詰まった繭玉も全て回収したので、収納内にはフェンリルの肉と臓物、魔石などが溜まった。

 例に漏れず大腸と骨格、眼球と神経だけは外に出して穴を掘って埋めた。あとは他の体液なども存在したのでそれも込みで大穴に捨てた。


「主が消えた直後から魔物の動きが変化したにゃ。怯えていた魔物が周囲に出てきたかにゃ? ここは元々は他の魔物の領域だったのにゃ?」


 そう、疑問に思ったところ魔物達も何故か私に怯えて出てこない。


(ま、まさか私が次の・・・ないない。とりあえず、一休みしたら森から出て行きましょうか)


 私は大蜘蛛が陣取っていた巣まで登った。


「寝心地の良さそうな、ハンモックがあるだけにゃ。このうえで蜘蛛さんは寝ていたにゃ?」


 そこで大魔石を取り出してペロペロと舐めるだけだった。イノシシはハッカと思う風味だったが大蜘蛛は酸味の強いレモン味かと思った。


「ずっと舐めると口の中が酸味だらけになりそうにゃ。それでも好みだから舐めるのにゃ!」


 経験値も獲得出来るし、Lvアップにも繋がるし。ただ、この選択が思いも寄らない結果を招こうとはこの時の私は予測していなかった。



 §



 魔石を全て舐め終えた。

 空は既に暗がりで真夜中だと分かった。

 その直後、眠気が襲いかかってきたのだが、


「にゃ、にゃんにゃ? か、身体の芯から、す、凄まじい、痛みが! にゃにゃ!!?」


 眠気と共に激痛が身体を襲い、あまりの激痛に意識が自然と落ちた私であった。



 §



 痛みで落ちた私の意識が浮上していく。

 猫の身体で感じた痛みは過去に例の無い物だった。手術でもあそこまでの痛みは無かった。

 私は瞼越しの光に気づき瞼を開く。


「ん? ど、どれくらい時が? あ、語尾が」


 太陽は真上に存在し、昼間だと分かった。

 その際に語尾が消えていた事を知る。

 それと共に、


「えっと・・・眼の端にチラチラと見える白い髪はどういうこと? というか」


 不可思議な変化が身体に起きた事を知った。

 視線を下に向けると白い巨乳があった。

 更に下には大変見覚えのある下腹と尻尾。

 人のような白い脚が左右から伸びていた。

 胸の左右には白い腕が生えていて明らかに今の私が猫ではないと分かる。


「い、一体、なにが?」


 私は両手を顔に伸ばし、顔立ちが猫ではなく人そのものになっていると気づいた。

 耳は頭上にあったけど。




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