第12話

 中に入り、扉が閉じられると、外から漏れていた光もなくなり、光源は手元のランタンのみとなった。


「ずいぶん本格的なんだね」

「そうですね。意外に楽しめそうです」

 暗闇の中を手探りで進んでいくと、いきなり足元からガスが噴出してきた。

「うわっ! って、あれ? なんか踏んじゃったかな?」


 驚いて飛び跳ねた拍子に、何かのスイッチを踏んでしまったようだ。

 それからややあって、何かがゴロゴロと転がってくる音が聞こえてきた。


「なんの音だろう?」

「貴方様! 走ってください!」


 クレハがランタンで照らした先に、巨大な岩がこちらに向かってくるのが見えた。


「うわあああああああああ!」

 二人で脇芽も振らずに走った先には、道がなくなっていた。

「クレハ! 道がないよ!」

「っ! 貴方様、失礼します!」


 私を横抱きにしたクレハは大きく飛んだ。暗くて道がなくなっているように思われたが、実際には先が見えないほどの大穴が空いていたようだ。


「助かったよ……ありがとう、クレハ」

「いいえ。大事無いようでよかったです。先に進みましょうか」


 それからも、高所から飛び降りる必要があったり、壁に押しつぶされになったり、果ては天井から刃先を潰した槍が降ってきたりと、散々な目に遭った。


「はぁはぁ……これ本当にお化け屋敷? 私の知ってるやつと違うんだけど……!」

 さっきからドキドキの種類が純粋な恐怖じゃなくて恐怖からくるものばかりだ。

「わたくしの知っているものとも違いますね」

「だよねぇ」


 槍が降ってくるトラップで確信したが、どうもこのお化け屋敷はエピフィルム人計算で難易度が設定されているようだ。〝外〟出身の私ではキツイ。


「今更ですが、リタイアいたしますか? その、流石に貴方様にとって危険すぎる気が……」

「……いや、後ちょっとでクリアできそうだし最後までやろう。あの扉を見て。いかにもって感じがしない?」


 ランタンで照らした先には、いかにも宝物庫って感じの豪華な引き戸がある。


「わかりました。わたくしが扉を開けますね。貴方様はわたくしの後ろに」


 大きな引き戸を開けると、部屋の中央に宝箱があった。が、宝箱を守るように7体の吸血鬼が立ち塞がっている。


「銃の出番みたいだね」

「わたくしが援護しますので貴方様は宝箱を」

「了解」


 パンパンと、次から次へと聖水を吸血鬼に命中させていくクレハ。

 その隙に私は宝箱を奪取し、中身の聖杯を獲得する。


「クレハ! 宝をゲットしたよ! 脱出しよう!」


 最後の一発を撃ち込んだクレハはこちらに駆け寄ってこようとする。しかし、そんな私達を切り裂くようにラスボスが現れた。


「ハッハッハッ! 逃がすものか!」

 パンパンッ! 銃を撃ってみるも、軽快な動きでかわされてしまった。

「くっ! 後ちょっとなのに!」


 ラスボスは出口と思われる扉の前に鎮座している。彼女を倒さないと、脱出は不可能だ。


「……クレハ、私に考えがあるんだけど」


 コショコショと内緒の作戦を話した私は、作戦通りラスボスに向かって駆け出す。そして、

「食らえ!」

 近距離で銃を突き出す。

「ハッハッハ! 何度やっても無駄なこと――」

「なんてね」


 私が持っていたのはクレハが使い切った空の銃。本命は、回避行動に移って身動きが取れなくなっている今、背後から接近していたクレハだ。


「なに!?」

「おしまいです!」


 バチャン。

 心臓に一撃食らったラスボスは唸り声を上げて倒れた。私達の勝ちだ。


「やったね」

「ええ、やりました。貴方様の作戦のおかげです」

「クレハのおかげさ。私一人じゃ勝てなかった。さあ、脱出しよう!」


 無事脱出に成功した私達は記念のキーホルダーを貰ってお化け屋敷を後にした。


「終わってみれば、すごいドキドキできたね」

「あれをお化け屋敷と言っていいのかは疑問ですが……」

「あはは、たしかにね。でも、面白かった。動いたらまたなんか食べたくなっちゃったな」

「そろそろショーのお時間ですし、見ながら食べられるものがよいでしょうね」

「それなら――」


 焼きとうもろこしを購入した私達は、ちびっ子達に混ざってヒーローショーを鑑賞した。


 流石に私が子供の頃、捨てられた雑誌で一度だけ目にしたことのあるヒーローとは違ったけれど、5色のヒーロー達が怪人をやっつけるという勧善懲悪の様は、大人になった今見ても、なかなか以上に楽しめた。


「ずいぶん、楽しんでいらっしゃいましたね?」

 ショーが終わり、未だ興奮冷めやらぬ私にクレハはそう言った。

「子供の頃に見れなかったからね」

「……〝外〟では、そのような余裕もなかったのですか?」


 しまった、と思った。そんなことを言ってしまえば、優しいクレハのことだ、私の過去を想像して気を使わせてしまうのは目に見えていたというのに。


「そ、そんなことないよ! 私はひねくれてたから他の子が見てるからって理由で見てなかっただけで……!」

「本当に、そうなのですか?」


 狐の面越しに、彼女の透き通った瞳と目があった気がした。


「……まあ、余裕はなかったかな?」

「聞かせてください。貴方様の〝外〟での暮らし」

「聞いても面白くないと思うよ?」

「貴方様のこと、知りたいのです」

「……少しだけだよ? ここじゃなんだから、場所を変えようか」

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