第二話「小さくても確実な一歩」

 保健室に運ばれた私とエリナは二人きりで話をしていた。

「邪魔しないでって前に言ったわよね?」

「うん。でも私が承諾した覚えはないよ」

 エリナは悔しそうな顔で俯くと、私にこう尋ねた。

「なんで自分の方が余計怪我する助け方したのよ」

「あまり重傷にならなくて良かったね」

「質問に答えなさいよ!」

「一つ忠告しておくよ、エリナ」

「……なによ」

「リリア様を貶めたら大変なことになるからやめときなさい」

 私の忠告に対しエリナは鼻を鳴らす。

「アンタが邪魔しなきゃアイツを追い出せたのに」

「それがまずいんだって。怒って復讐に来るんだよ」

「大丈夫よ。みんなアタシの味方だし。アイツ一人じゃ何もできやしないわ」

「でもリリア嬢には親友がいるよね。リルカ・エディア-ル公爵令嬢。あの子とは仲良くなれた?」

 沈黙。つまりノーということだろう。私は言葉を続ける。

「あの子が復讐の鬼なんだよね」

「なんでわかるのよ」

「乙女の勘、かな」

「なんでもそれではぐらかせると思ったら大間違いよ!」

 エリナは私に指を突き付ける。

「アンタはアタシの前世の名前を知ってる。ただの転生者じゃないことくらいわかるわ」

「……そっか」

 彼女はこの真実を受け入れられるだろうか。

「私が生きていたのはエリナの住む一個外の世界って言えばわかる?」

「……アタシが住んでいた世界ごと作り物だったって言いたいの?」

「うん」

「……ヒール」

 瞬時に痛みが無くなった。見るとアザが消えている。

「エリナ?」

「感謝しなさいよ。この力、私の意思で他人に使ったことないんだから」

「ありがとう!」

「……当然よ、このくらい。ちゃんと『ティーナさんが治してくれました』って言って回りなさいよね」

「それが目的かぁ」

 なんとなく察してたけど。

 その直後彼女はそっぽを向いて小声で言った。

「それに、怪我する覚悟で助けてくれたし」

 エリナがデレた。その事実が嬉しくてわざと聞き返す。

「今なんて?」

「何も言ってないわよ」

「そっかぁ。どういたしまして~」

「聞こえてるじゃないの!」

 顔を真っ赤にして怒るエリナに私は軽く謝る。

「ごめんごめん」

「ったく。次はないからね」

 そう言ってそっぽを向いたエリナはふと思い出したように尋ねてきた。

「そういえばアンタの名前何?」

「カルロだよ」

「そっちじゃない。前世の名前」

「へ?」

 呆気にとられていると彼女は高い声で怒鳴った。

「アンタだけ知ってるの不公平じゃない!さっさと教えなさいよ!!」

「ゆ、唯香です」

 物凄い剣幕に圧倒されつつも答える。するとエリナは大人しくなった。

「ああそう、ユイカね。今後二人の時はそう呼ぶから」

「え、なんで?」

「理由なんて無いわよ。アタシがそうしたいと思っただけ」

 エリナはそう言って立ち上がると、扉に向かって歩き始める。

「あ、ちょっと――」

「アンタはもう少し休んでれば?」

 そう言って扉を開けた瞬間、彼女は動かなくなった。

「ティーナ?」

「なっ……アンタ何しに来たのよ」

 驚愕している彼女の後ろに立って見てみると、保健室の外にリリアがいた。

「あの、えっと、ティーナさん、カルロさん」

 何か言いたげな彼女に私は優しく声をかける。

「どうしました?リリア様」

「さっさと言いなさいよ」

 エリナが急かした。完全に猫を被るのを放棄している。

「助けられなくてごめんなさい!」

 リリアの口から出たのは謝罪の言葉だった。

「私がティーナさんの手を取っていればあんなことには……」

「気にしないでください。怪我はティーナさんが治してくれましたから」

「え?」

「そうよ。アタシの聖なる力でね」

 私の言葉で調子を取り戻したのか、エリナは得意げに言った。

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