閑話 1-1.竜と猫

 今日はリンドヴルムさんが来て、初めてのお休みだ。ここ数日の出来事で休みたいのはやまやまだけど、明日からはミノタウロスの耐久配信がある。

 忙しくなるのは確実だし、リンドヴルムさんの家具を買えるうちに買っておいた方が良い。

 なので今日はこれからの生活道具を揃えることになった。明日のミノタウロスは……あまり考えたくない。

 さっきまでリンドヴルムさんと話していた明日の話を思い出す。リンドヴルムさんの話でミノタウロスとの戦い方は頭には入ったが、自分がその通りに動けるかは……って考えちゃいけない。動くしかないんだし。やっぱりこれ以上は考えない方が良いな。

 

 よし。とりあえずまずは買い物だ。そう切り替えてからPCの電源ボタンを押す。

 一応ネットで買っちゃいますよ。と最終確認するように隣に立っているリンドヴルムさんを見るが、特に気にしていないようだった。やっぱり興味がないんだな。


 せっかくだから隣駅のホームセンターに行こうとしたら、「家具は家具ですし、家で大きさを比べながら買うのが一番楽ですよ」って一蹴されちゃったし。

 お布団のふわふわさや椅子の座り心地を話しても、地面と比べるし、最終的には私が気にかけてくれて嬉しい。だって。

 確かにリンドヴルムさんは竜で人の生活に興味はないのかもしれない。言いたいことはわかるけど少し寂しい。


 一人でレビューを見ながら探すのも段々むなしくなり、結局今私が使っているメーカーでおすすめと書かれたものにしていく事になった。

 ベッドを置く場所はないので、布団と二人用のローテーブルと配信部屋の予備椅子。家具はこれで良いかな? リンドヴルムさんに他に欲しいものがないか聞こうとしたところ、リンドヴルムさんが何かを見ているのに気付く。


 なんだろう。今までの様子からリンドヴルムさんが家具に興味を持つのは珍しいし、買えるものなら買おう。そのまま視線の先を見るとそこにはペット用品と言う文字が入る。私のペット。出会った時から言っている言葉が頭に浮かんだ。


「そこにはリンドヴルムさんが使うようなものは売っていませんよ」


 猫用のお皿が欲しいと言ったら困るので、その前に伝える。

 だがリンドヴルムさんは未だにペット用品と言う文字を見ていて何も言う気配はない。だがそのまま待っているとゆっくりと口を開いた。


「僕も真白のペットになりたいです」


 いつもとは違う寂しげな表情だった。思わずはいと出てきそうになったが急いで飲み込む。


「だから私はそう言う趣味はないです」

「趣味? 真白が好きな猫と一緒ですよ。僕を側に置いて可愛がるんです。変ですか?」

「変ですよ。リンドヴルムさんは人の姿なんですよ。ペットの様に可愛がって欲しかったら猫の姿をして下さい」


 リンドヴルムさんが猫の姿ならまだペットとして受け入れられる。けどイケメンのペットは無理だ。

 リンドヴルムさんはきっと猫の姿になりたくないと言うと思うけど、ペットと自称するのなら、少しくらいは抗議させてもらおう。


「それは無理ですね。どちらが良いかちゃんと考えて人の姿にしましたからね」

「えっ!? 考えたんですか?」


 まさか考えていたとは思わなかった。ペットになりたい。もしかして本当に飼い猫のようになりたいの? そのまま見ていると少し困ったような表情をしながら笑った。


「はい。猫の姿は確実に真白が可愛がってくれますが、人との意志疎通が難いですからね。真白以外の人には敵とも味方とも思われても困ります。僕の力は真白と僕だけのものですからね」


 最後は真剣な表情に変わっていた。

 最初のは置いておいて、確かに意思疎通が出来るのは大事。リンドヴルムさんは昨日の配信で自分の言葉で伝えて、一応は安全な魔物と認識されつつある。

 そっかリンドヴルムさんにとって姿形はそこまで大事じゃないんだ。


「リンドヴルムさんにとって猫と人の違いは人と意志疎通が出来るかどうかなんですね」

「その通りです。僕は人の成りをしていますが、中身は飼い主に恋した犬猫と代わらないですからね」


 いや、それは違うでしょう。そもそもペットは飼い主に恋をしない。人だから人に恋をするんだ。


「人の成りをしている竜はペットじゃないですよ。ただの同居人です。これ以上は平行線ですし、この話はこれで終わりです。ほら。買い物の続きをしましょう。他に欲しい物はないですか? なければ食器を見ますよ」


 話題を変えるように声をかけながら、食器のボタンを押す。


「あります。真白と同じお皿が良いです」


 押した瞬間にリンドヴルムさんが私に声をかけた。

 私と同じお皿が良い。使っていて気に入ったのかな。あれ、どこで買ったっけ?


「嫌ですか?」

「い、いえ。ただどこで買ったか覚えていなくて」

空印くじるしですよ」

「そうだった。あり……いや、普通に私の記憶の話をしないで下さい」


 何気なく話さないで欲しい。リンドヴルムさんは私の記憶に存在しない。なのにあたかも一緒にいるように話さないでほしい。


「リンドヴルムさんはやっぱりペットになれないですよ」


 人のように私に日常に入り込むなら、ペットにするのは無理だ。そう思いながらリンドヴルムさんへ伝えた。

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