第29話 【朝活】僕より弱いヤツに会いに行きます 6

『?????』

『なんでお前が否定するんや』

『彼氏よりペットと眷属のが上』

『更に上にいる配偶者欄』

『なるほどわからん』

『ペットのが大事なの?』


 聞き間違えかと思ったが、リンドヴルムやっぱり恋人よりもペットと眷属って言った。恋人よりもペットが良い。相変わらず何を言いたいのかわからない。


「ペットのが大事なの? ええ。ペットはみかんを買って貰えますからね」


『みかんか』

『みかんなら仕方ない』

『そうだな』


 なんだろう。リスナーさん達が納得しているコメントが多い。一昨日のみかんの話かな? 私が戦っている時に話していたのかな? リンドヴルムさんを見上げると誇らしげな表情でコメントを見ていた。


「真白からみかんを買って貰うのは僕の特権です。それよりもゴーシールシャがいつ来るかわからない状況ですし、そろそろ本当に配信を終了しましょうか」

「ゴ、ゴーシールシャが来るんですか?」

「どうやら僕の存在に気づいたみたいです」


『みかんでマウントを取ってくる日本橋の支配者』

『う、羨ましくないんだからね』

『悔しがってるやんww』

『草』

『ゴーシールシャま?』

『リンドヴルムがいれば問題ないだろう』

『気にする必要なさそうだけど』


「僕の敵ではありませんが、今の真白ならゴーシールシャにも立ち向かっていきそうですからね」

「私が? そんな事ないですよ。リスナーさん達もそうおも」


 問いかけるようにコメント欄を見ると『ごめん』と言う言葉が一斉に流れる。だれも否定も肯定もしない。


『お疲れ様でした!』

『おつ』

『次も楽しみに』

『帰るまでがダンジョンだから気をつけて』

『気をつけて』

『おつ』


 何か急かしていない? 逃げるよ。ただリンドヴルムさんも「でしょう」と言いたげな笑顔で、満場一致で私がゴーシールシャに挑むと思っているのが伝わる。


「大人しく帰ります」

「はい。真白は僕が責任をもって帰還させます。タグで投稿された内容は見させてもらう予定ですが、反応出来るかわかりません。それでも良ければ是非投稿して下さいね。また次回もよろしくお願いします」


 リンドヴルムさんはそう言うと配信終了のボタンに手を掛ける。終了する前に私も急いで挨拶しないと。


「タグ。たくさん見ます! 今日もありがとうございます。また次も来て下さいね」


 何だかんだでリンドヴルムさんは私が挨拶をするのを待ってくれたみたい。私が言い終わるとすぐに配信画面が待機画面に変わった。


『おつ』

『お疲れさまでした』

『おつかれ』

『おつ。これから寿司』

『俺は仕事頑張ってくる』

『土曜出勤がんば!』


 お疲れ様コメントを見ていると配信がすぐに切れた。緊張の糸が途切れそうになるが、まだダンジョンの中。改めて気を引き締めると出口の方向を見る。


「ゴーシールシャが来たら逃げますからね」


 帰る前に一応言っておこう。なんか色んな方からゴーシールシャと戦いそうって思われているし。


「違いますよ。その時は僕の背に隠れて下さいね」

「リンドヴルムさんの背に?」

「そもそもゴーシールシャ相手に真白が逃げられませんよ」


 そうかもしれないけど、そうはっきりと言わなくて良いじゃん。


「試してみないと」

「試さないで下さい。それくらいの実力差があります。なのに真白は逃げられなければ戦おうとしてしまいますからね」

「戦いたくて戦うわけじゃないです。隙をついて逃げるには戦うしかないです」


 それしか方法がないならするしかない。戦いたいからではなく戦わざるおえないから。なのに人をそんなバーサーカーみたいに言うのは止めて欲しい。


「だから僕の背中に隠れるんですよ」

「リンドヴルムさんの?」

「僕の背中は不安ですか?」


 覗き込むようにじっと見る。距離が近い。顔が好みなのわかっててするからタチが悪い。


「い、いえ」

「返事がぎこちないですよ。本当にそう思っていますか?」


 無理やり言葉を出し返事をするが、リンドヴルムさんは更に近づく。このままだとキスしてしまいそうだ。

 このままだと良くない。避けるように後ろへ下がっても近づいてくる。ヤバい避けられない。そう思った瞬間リンドヴルムさんは私から何もなかったように離れた。


 ちょっと顔が私の好みだからって私を弄んでいるのか。キスされなくて安心する所なのに何故か出てきた腹立たしさを抑えながら、リンドヴルムさんを見る。

 リンドヴルムさんは真剣な表情で右の方を見ていた。だが私の視線に気付くとすぐにいつも通りの優しい表情で私の方へ顔を向ける。


「でしたら。僕の背に隠れてていて下さいね。あっ、危ないので僕が良いと言うまではここから動かないで下さいよ」


 そう言うとリンドヴルムさんが私の前に立つ。


「動かないで? 危ない?」


 何があったんだろう。そのままリンドヴルムさんの言葉を待つと、子供がいたずらを誤魔化すような笑顔をした。

 何をしたんだ?


「ゴーシールシャが後三分くらいでここに来ます。今から帰っても追いかけてきますし、ここで倒して帰りましょう」


 えっ!? ゴーシールシャが三分でここに来る? その割にリンドヴルムさんは呑気に微笑んでいた。

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