第27話 【朝活】僕より弱いヤツに会いに行きます 4

「君は魔力のコントロールが上手だ。魔力量が増えれば君の火は色々な形に出来る。火の剣や火の竜とかな。そのためにはまずは火のレベルをあげるんだ。君の努力はきっと近い未来に君を手助けしてくれるよ」


 私の頭の中で先生が続けた。コントロールが上手。色々な形に出来る。実感はないけど今はそれにかけるしかない。

 火の剣。まだ弓をはっきりと認識できない私が試すにはリスクが高すぎる。火の竜? エイム力じゃん。私が出来ることは?


「防ぐ?」


 そうだ。盾だ! 火を盾のように作れば防げるかもしれない。

 避けながら右手をかざし、盾をイメージする。するとすぐに新聞紙くらいの大きさの火の板が出来た。盾と言うには少しいびつだが、これなら弓を防げそうだ。


 すぐに飛んできた弓の方向に盾を向ける。

 弓は盾にぶつかる。その衝撃で吹き飛ばされそうになるが、吹き飛ばされないようにしっかり踏ん張る。


「絶対燃やす!」


 絶対負けない。力を入れるように勢いよく声を出しながら、踏ん張る。気合いだ。気合い。

 そのまま踏ん張ると弓の威力は落ちていき、最後は私の炎で燃え尽きる。


「防げた……?」


 これならいける。と言うかこのままなんとかするしかない。このまま火の盾をずっと作っていると倒れそうな気がする。

 いつまで立っていられるかわからないし、急がないと。盾を出したまま急いでケンタウロスへと向かう。そのまま盾で殴ろうとするが、ケンタウロスが距離を取るように離れた。

 火の射程範囲には入っているが、右手で盾を展開しているから右手では火を出せない。なら左手で魔力を出したら? やったことがない、出来るのか。

 ……って違う。するしかないんだ! 左手で火を出す。そのままケンタウロスに向けて左手をかざそうそう思った瞬間、突然ケンタウロスが燃えた。

 え? なんで? 火の盾を構えながら様子を見ていると、ケンタウロスの魔力を吸収した感覚があった。


「ケンタウロスの魔力? この火は私の?」

「ええ。真白の火ですよ」


 突然左からリンドヴルムさんの声が聞こえた。びっくりしてよろけそうになるが、リンドヴルムさんが私の肩を支えてくれたからか転ばずにすんだ。

 あっ。やば。今ので火の盾が消えた。ケンタウロスと戦っている途中だったのに。リンドヴルムさんから急いで離れてケンタウロスの方向を見る。……あれ? ケンタウロスがいない。


「ケンタウロスは!?」

「ケンタウロスは真白の火で討伐されました」


 リンドヴルムさんが言い切った。私の火?


「え?」

「格上でも目の前に来た魔物をソロで挑んでしまうのは真白らしいですよ」


 リンドヴルムさんは状況を理解しているようだった。やっぱり私が倒したのかな? 全く実感が湧かないせいか信じられない。


「……やっぱり私が倒したんですね」

「ええ、どうされましたか?」

「最後の火を出した気がなくて」

「真白の火のレベルなら予備動作なしでも発動できますからね」


 予備動作なしで? どういうことだ? 魔力は利き手をかざして発動するって学校で習った。予備動作なしで出来るなんてことはないはずだ。


「えっ。学校では手をかざすって」

「魔力を出すのに集中させるための動作です。それに手をかざすと魔力が使える。そう頭の中に認知させることで魔力を使えると思っているだけです」

「……認知?」

「ええ。きっかけなしに集中して魔力を出すのは難しいですからね。今回も極限状態だから出来たので、そう簡単にはできませんよ」


 簡単には出来ない。確かに念じて見たが、先ほどと同じように火が出る気配はない。

 かざした時の感覚を思い出せば出来るかな。そう思い、手をかざすが火が出なくなった。え? なんで?


「私の火が、出ない」


 どうしよう。再び手をかざすが火が出る様子はない。ヤバい。魔力がなくなった。冒険者じゃなくなる。


「私の火が」

「真白。落ち着いて下さい」


 無理矢理火を出そうとしていたら、私の右手を包み込むようにリンドヴルムさんが優しくなでる。

 落ち着いてって言われても火が出ない。魔力を出さなきゃいけないし、手を離して貰おうとそのままリンドヴルムさんに見上げるとリンドヴルムさんが私に向けて微笑みかける。その表情が綺麗で思わずみとれそうになった。


「スタミナ切れですよ」


 私がじっと見つめているとリンドヴルムさんがゆっくりと安心させるような口調で言った。


「スタミナ切れ?」


 聞いた事がある。魔力を一度に使いすぎるとスタミナ切れを起こしてしばらく魔力が使えなくなる。

 スタミナ切れを起こすことがなかったからびっくりしたが、落ち着いて考えるとそうだ。

 理由がわかったからか、少しだけ気持ちが楽になった。


「はい。待てば回復します」

「回復。良かった……」


 安心したら立てなくなった。そのまま崩れ落ちるように地面に座るとリンドヴルムさんが隣にしゃがみながら口を開く。


「火の盾で魔力を一度に消費したからですよ。集中力も低下しているでしょうし、しばらくは極限状態にならないと火は出せそうもないですね」

「なるべく早く回復を」

「焦る必要はないですよ。少し早いですが今日は終わりにしましょうか」

「え? 今日の目標はまだ」


 体のレベル二十が目標だが、まだ十二。後ミノタウロスを十数体は倒さないといけない。


「それくらい誤差ですと言えるくらいの成果ですよ。ケンタウロスと戦えるようになるのが今日の目標でしたからね。目標どころか倒せましたし、今日は充分です」

「ギリギリで」

「ギリギリじゃないですよ。ほら」


 そう言いながらリンドヴルムさんが私にスマホを見せる。私の配信画面にはコメントが追い切れないくらいに一気に流れていた。

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