第12話 君の方がベラドンナに気を付けた方がいいだろう
「ふむ。だいたいのことは把握出来た。私に相談したのは悪くない判断だ」
「は、はい」
ビカンに褒められたのは初めてかもしれないとアマーリエは思い出した。
たいてい、「アマーリエ・ネドヴェト。また、君か」と怒られた記憶しかなかったからだ。
ビカンが笑うとこんなんもかっこいいなんて、知らなかったと彼女は胸が高鳴ったように感じた。
それは一瞬のことに過ぎず、そんなことはあるものかとアマーリエは全力で否定した。
「ベラドンナが魔女の毒と呼ばれる理由を知っているかね?」
「分かりません」
「そうか。令嬢が知っておくべき知識ではないが、ネドヴェト嬢の家に関わることだから、知っておくべきだろう」
「あの……先生。言いにくそうですよね?」
「そんなことはないぞ、ネドヴェト嬢」
「エミーと呼んでください。家族からはそう呼ばれてるのでその方が楽ですし」
「そ、そうか。ならば、君も私のことをペップと呼ぶがいい」
自分が知らなかっただけなのだとアマーリエは反省もしていた。
知ろうとしなかっただけでビカンという男が気さくなだけでなく、意外にも話しやすい人間だったことに今更、気が付いたのだ。
今までのことも意地悪ではないのかもしれない。
単に不器用な人だと考えたら、今までのことも許せそうだ。
アマーリエはそうも考えていた。
「
「そ、そんなこと考えてませんよ、
「ペップ。ベラドンナのこと、教えてください」
「いいだろう。勉強が嫌いな君が勉強したいと言うんだ。覚悟はいいかね?」
「え、えぇ」
「ベラドンナがある女性の名ということは知って……いないようだな」
アマーリエの口は半開きである。
いわゆるポカーンとしているという形容が正しい。
その反応でビカンは全てを悟った。
悟ったというのには語弊があった。
諦めたという方がが正しい。
「ベラドンナは魔女だった。魔女に善き魔女と悪しき魔女がいるのは……知らんだろうな。分かっていたとも。君にも分かりやすく、説明をするとしようか」
ビカンは半ば呆れているような表情をしている。
その割に分かりやすく、説明した。
根気強く、解説する姿は意地悪な教師とは程遠い。
しかし、アマーリエは元来、勉強が嫌いである。
ビカンの話は歴史も絡んだ複雑な物だった為、全てを理解することは叶わなかった。
そんな彼女でもどうにか、理解出来たのは……
魔女になれるのは特殊な血が必要。
一番、偉い魔女は女神フレイア。
女神様に愛された者がなれる。
魔女にはいい人と悪い人がいる。
聖女も魔女である。
ベラドンナは『蟲の乙女』というあだ名があった毒に詳しい魔女。
彼女の体がベラドンナという花になったという伝説を残し、姿を消した。
重要なのはこのベラドンナの毒とドラゴンの血の相性が悪いということ。
竜による
ただし、それには正しい分量と用法を守ることが大事。
決して、
ここまでが限界だった。
それ以上をビカンが教えようとしてもアマーリエの頭が拒否しただろう。
「つまりだ。何者かがネドヴェト家に忍び込み、ベラドンナの毒を盛っているのはもはや、疑いようがない。だが、犯人にとって、誤算があったようだな」
「え?」
「エミーの家系が竜の血を引いていることは周知の事実だ。これは分かるね?」
「はい」
「しかし、
聖女も魔女であり、竜の血と魔女の血は相性が悪い。
これらはどうにか理解したアマーリエだったが、推理を導き出せるほどは理解していない。
(……えっと? 何のことか、分かんない)
呆然として、目が点になったアマーリエにビカンは呆れたように
「分かっていなかったか。簡単なことだ。聖女の血が毒を抑えていた。そういうことだ」
「そうだったんだぁ。知らなかった」
「そして、覚えておくといい。エミー。姉よりも君の方がベラドンナに気を付けた方がいいだろう」
「へ?」
そこから、ビカンのお説教交じりの授業が再び、始まったのは言うまでもない……。
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