第33話『終わり、そして始まる』

 彩華さやか三鈴みすず知恵ともえから屋上に呼び出された後、どんな話をしたかを教えてもらい、オレの中で、あの2人との関係は終わりを迎えた。

 

「これで余計な事を気にせずとおると一緒に居られるわけだ」

「ああ、それもこれも彩華のおかげだよ。本当にありがとう」

「気にしないで良いって、恩返しみたいなもんなんだし。……それに、結局は私の為になったから」


 そう言って、身を寄せる彩華。

 

「恩返しのつもりが徹の心を鷲掴みにしちゃうなんて、罪な女だね、私」

「一昨日も言ったけど、三鈴との件に協力してくれたからって訳じゃ無いって」

「もちろん覚えてるよ。私の可愛さと、私と一緒に居る時間が好きで、気が付いたら恋に落ちちゃったんだよね」


 確かにそうなんだけど、彩華の口からそれを言われると恥ずかしい。


「ところで」

「うん?」

「私としては……徹の彼女である私としては1つ気になる事というか、気にしちゃう事があるんだけど」

「気にしちゃう事?」

「いつまで元カノとその友達の事を名前で、しかも呼び捨てで呼んでるのかなーって」


 どこか恥ずかしそうに彩華にそう言われ、「そういえば」と自然と声が漏れた。


「津山と水谷……か。まぁ、もう呼ぶ事も話題に出すことも無いと思うけど、気を付けるよ」


 口馴染が薄いから、もしかしたらふいに、特に咲ちゃんと話している時には、『三鈴』と『知恵』と呼んでしまうかもしれないけど、彩華の前では気を付けないと。

 オレも彩華の口から、他の男子を呼び捨てで呼んでいるのなんてあまり聞きたく無いしな。


「もうそろそろ、親が帰って来る時間じゃ無いか?」

「え、あ、本当だ。あーあ、楽しい時間も、幸せな時間も過ぎるのが早いなあ」

「オレも名残惜しいよ」


 付き合って間もないから、離れる事に極度に寂しさを覚えてしまう。

 これから少しずつこの感覚は薄れてしまうかもしれないが、別にそれは悪い事じゃない。だけど、この感覚が薄れた結果が三鈴の行動にブレーキを掛けなかったのだとしたら……オレは寂しく感じる事も悪くないと思う。


「土曜日さ、遊園地か、動物園、水族館でも良いし、近くのショッピングモールでも良いからさ、外にデートしに行こうか」


 彩華と遊ぶ時は過去2回、今日を含めたら3回とも、どちらかの自宅での事だった。それが悪い事じゃ無いし、あの時は知り合いに誤解を招くことを避ける為の選択だったから仕方が無かった。

 しかし、もうオレたちは付き合っていて、多分周囲もそれを察している。だったらもう、気にする必要は無い。


「良いね、賛成!木曜までには行先決めよ」


 自分の提案で好きな人がこれほど喜んでくれると、こっちまで嬉しくなる。

 ああ、やっぱり好きな人には笑顔で居てもらいたい。

 三────津山と水谷への接触を彩華に頼んだのも、あんな事をされたとは言え、元カノと友達……落ち込んでたり、悲しい顔はあまり見たくは無かったから。

 ……でも────。


「どうしたの?」

「いや、何となく」

「そっか」


 彩華の頭を撫でながら、オレは自分の意思を確認する。

 

 今オレがなによりも優先すべきは────彩華の笑顔だ。

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