5分で読める!気まぐれショートショート

ちーそに

天使のおとしもの

 街路樹と街灯が譲り合って立ち並ぶ夜道を、風景など気にすることなく自分のネイルをしきりに眺めながら歩いている。


「なーにか良いことないかなぁ……」


 薄い暖色の灯りに照らされたネイルを見ていた視界は一瞬の轟音と共に白く染まった。


「えっなになに、雷? びっくりした……」


 綺麗に舗装された街路に穴が開けられて少し煙が立っている。周りに共有できる人影はない。

 近づいて穴を見てみるとそこには小さな人影と羽。


「わ! 人? ……大丈夫ですか?」

「いてて……また落とされちゃったよ。ん?」

 

 二人は眼を合わせると驚愕する。


「えぇぇ!!」

「えぇぇ!!」


「なになに、こども? 羽? 天使??」

「君が大きな声出すから僕も驚いちゃったよ」

 

 羽を軽くひらひらさせると街路の穴に立ち上がった。


「どうも、僕天使。上でちょっぴりイタズラしたら地上に落とされちゃった。良いことを3つするまで帰れないんだ」白い羽の生えた小さな者は自分のペースで話す。


「あ、どうも。私人間です。天使……さん? 神様に落とされちゃったの?」人間のマナーである挨拶を済ませ、調子を合わせる。


「こわーい大天使様に落とされたのさ! 大天使様のもとで働いてるけど、逆らえたことないよ……。あ、ちなみに神様っていうのはこの世界の概念であって誰かを指しているわけではないんだよ」

 

 突然の出来事に呆気に取られていると、夜に一際目立つ白い羽をゆっくり動かして同じ目線の高さまで飛び上がった。


「さて! 早く帰ろう! 君も天使の働きっぷりを見ていくかい? 良いことを3つもするんだ。」

「あ、うん。せっかくだから」

 

 それを聞くと目的地が決まっているように踵を返して進みだす。


「あの〜いろいろ聞きたいんだけど、天使さん? いつも良いことをしてるの?」

「僕たちはお仕置きで地上に落とされたときだけ、そんなに大きな力は無いんだ。人間界はいつも大天使様が守ってくれているよ! 逆を言うと事故や事件は大悪魔が、小指ぶつけたとか調味料きらしたとか小さなことは悪魔の仕業だよ」

「へぇ……」


 人間界が天使と悪魔に舵を切られていることに理解が追いついていない。


「あと僕の友達も探さなきゃ、先に落とされたけどなかなか帰ってこないんだ。長いこと居座ると記憶を無くしてさまようことがあるから心配でね」

「え、こわ。……お友達はどんな子?」

「天界では珍しいんだけどいつも爪を綺麗にして装飾してたよ。君と同じようなやつ! 気が合うかもね」

「おしゃれさんなんだね」


 しばらく夜道を歩いていると、突然スピードを上げた。


「あの人スマホを落としそう!」

 手からするりと抜けたスマホに白い羽の者は力を加えて保護した。

「よし、良いこと1つめ!」

「え! 今ので良いの! ……結構簡単だね。たまにめっちゃ落としても無傷なことあるけど天使さんのおかげだったんだね」

「言ったでしょ? まだ小さな力しかないからこのくらいでも十分良いことだよ」


 少しだけがっかりすると、また迷いなく進み始めた白い羽の後ろを付いて行く。水の音がして川の近くに1人。


「今日はラッキーだ! 消費期限切れのプリンを食べようとしてる、えい!」


 川を眺めながら食べようとしたプリンを手から落として、プリンが転がり落ちていった。


「もう2つめだよ! すごいでしょ、今日は調子が良いなぁ……」

「今のは良いこと……? いや、お腹を壊さなくて済んだから良いこと……か」


 腑に落ちないまま2つめの良いことが終わった。


「実は3つめはもう見つけてあるんだ! すごいでしょ」

「へぇ……すごいじゃん」


 過度な期待は落胆するだけだと半ば諦めている。


「さぁ、帰るよ。――天使ラフ――記憶を無くしたんだろ? 大天使様に謝って記憶を戻してもらおう」真っ直ぐに綺麗な爪とその顔を見つめている。

「ん? ……天使? 私? 」


 その瞬間、背後から大きな猛禽類が飛び立つような音が聞こえ、踵からつま先にかけて夜道を離れていく。

 大小の2つの白い羽は3つめの良いことを叶えると雲を軽々と超えて天へと飛び立っていった。

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