第9話 女性神官イメルダとエルザ
「兵士の諸君、この者たちを並べてください。ファーナ、嘘発見の魔法と治癒魔法の準備を」
兵士たちが壁際に盗賊達を並べる。アルベルトの強さに圧倒されて、悪態もつけないのだ。
「もし、嘘偽りなく話せば、女神の治癒のご加護がある。嘘偽りを申せば、ウォーハンマーで腹部を殴った上で、女神の加護が受けられる。そしてもう一度ウォーハンマーで殴る事になる。いくつか質問するが正直に答える事だ。まずは捕らえた神官は誰に引き渡している?」
「黒衣の騎士でさぁ。嘘はついていません」
「ファーナ様?」
「嘘はついてはいないわ」
ファーナは少しびっくりしている。アルベルトがここまで荒っぽい事をしているのを見た事が無い。人の痛みが分からない人なのかしら?
それとも演技?
アルベルト方にファーナはそっと目をやる。
アルベルトからほんのりと嘘をついている感じがする。いかめしい演技をしているのだ。
ちょっと吹き出しそうになる。
どこまでも不器用な人。
そして、そのアルベルト見たら少し鼓動が早くなる。
それがファーナの感想だった。
「捕らえた神官たちはどこにいる?」
「この建物の2階に捕らえています。上がってすぐの部屋です。2人です」
「ファーナ様?」
「やっぱり嘘はついていないわ」
「手荒な真似はしていないだろうな?」
「商品に手を出すはずが無い。俺たちは誇り高い盗賊だからな」
「アルベルト殿、嘘はついておりません」
「ファーナ様、治癒の魔法を」
「地獄に落としたいところだけど、仕方ないわね、エンゲージヒーリング」
建物の床が緑に光り、盗賊達の怪我を癒していく。
「軍曹、ここは任せた。神官の救助に赴く。神官達を安心させるためにファーナ様ご動向を願ってもよろしいでしょうか?」
「当然よ」
「旦那様、グリムも行きますだ」
階段を上っていく。
上ってすぐの部屋には、ドアノブを乱暴に建物の突起した部分に括り付けて固定している。
「グリム、床に膝をついて、短剣でロープを切ってくれ、頭は俺が守る」
「もちろんですだ」
ものの数分でロープは切断された。
アルベルトはそこでノックする。
「盗賊の討伐隊の騎士、アルベルトと申します。囚われの神官はいらっしゃいますか?」
「はい、ここに2人います」
即座に返答が合ったと言う事は、伏兵がいないと言う事。
「グリム、ドアを開けてくれ。俺が飛び込んで安全確認をする」
盾を構えながら、アルベルトは部屋に入った。
盗賊はいなかった。
ライトの魔法をファーナが使ったのだろう。
部屋が明るくなる。
「ファーナ様!」
「どうしてここへ?」
「あなた達を探すために決まっているじゃない。そう言っても盗賊はこちらのアルベルト殿が倒してくれましたけどね」
「アルベルト様ありがとうございます、私はイメルダと申します」
少女を脱し、大人になりかけている全体的にむっちりした髪が肩くらいまで切りそろえている。我々で言う所のミディアムボブと言う様相の女性、イメルダが答えた。
イメルダの後ろに隠れている少女。セミロングの髪形が似合う女性のエルザがおずおずと出て来る。
「エルザとお申します」
「もしよろしければお顔を見せていただけませんか?盗賊の罠と言う不安があります」
「その程度の事でよろしければ」
アルベルトは左ひざを地面に付き、中腰になるとヘルメットを脱ぎ、チェーンメイルのフードを背中側に降ろした。
この時、アルベルトはイメルダの胸に視線が行かない様に必死の努力をしている。
ぽか
「アルのエッチ」
ファーナはアルベルトの無防備な頭を杖で殴る。
なぜか勝ち誇った様なイメルダが言った。
「ファーナ様、助けに来ていただいてありがとうございます。しかしご尽力された方にその仕打ちは酷くありませんか?それに妙にアルベルト殿とは親しげでは?」
「それはこっちのセリフ。それはともかく怪我は無い?」
「はい。私たちには怪我はありません」
「イメルダ。接着の魔法は使える?一応兵士とは言え、男性です。ドアと壁を接着の魔法で固めるのですよ?」
「ファーナ様は?どうされるのです?」
エルザが問う。
「それはもちろん春の巫女から夏の巫女になる訓練をなさるのでしょう?」
イメルダがなんだか楽しそうに言った。
「それって!」
エルザが顔を真っ赤にする。
「違う。私は大地の巫女、外で寝た方が力の回復量が多いだけです」
「ではこのままこの部屋でお休みいただけますか?下の部屋は兵士が守りを固めます。私は救出作戦の指揮を執ったヘンドリック男爵に報告に行ってきます」
アルベルトはそう言って下の階に降りて、軍曹に報告に行くことと見張りを頼むのだった。
続く
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