罪と同情〜まともな女に好かれない〜

秋姫

第1話 御堂 隼斗

僕、御堂隼斗みどう はやとはきっと未来へ進まなくなった存在だ。人間が時間的な存在なら、僕は存在できない。


妄言はどうでもいい。


この図書館は冷ややかな風に包まれて、少しばかり寒い気がする。

静かで時間が止まったようなこの空間は好きだが、ずっとここにいてはいけないと理性ではわかっている。


とりあえず目の前のレポートは終わった。

文学部心理学科に所属する3回生であり、大学を出て心理士になるために院に残るつもりはないから、仕事を探さなくてはいけない。


だがそれにどうも現実感を持てないでいた。


きっと今の怠惰な学部生生活が楽でいいのだ。理性で嫌々立ち上がり、とりあえず図書館を出る。

心理学科の入っている棟まで行き、教授の研究室の部屋のドアにレポートを投げ入れてしまえばもうあとは夏休みだ。

また怠惰で気楽な夏休みが始まる。

もっとも、普段からあまり怠惰に過ごしすぎたせいでレポートの提出が遅れ、夏休みの開始も遅れてしまったのだが。


僕は図書館を出て、心理学科棟へ向かった。

クマゼミのけたたましい鳴き声が聞こえ、うるさくて仕方がない。うだるような暑さは脳を麻痺させ非現実感を与える。

まるで、悪い夢を見ているかのようだった。


キャンパスを歩いていると向かいから人が歩いてきた。

学生にしては小さな鞄を持った、これから遊びにでも出かけていくかのような服装の女性。


年齢としては学生くらいだが――。



「あ……、結衣……」



しばらく会わなかったから気づかなかったが、間違いなくかつて付き合っていた支倉結衣はせくら ゆいだった。


彼女は高校からの同級生で、そのころから僕と支倉は付き合っていた。


僕がこの大学の心理学科に行きたいといったとき、すぐに第一志望をこの学校に変える程、もともと精神的に不安定で依存気味で、だがその家庭環境の悪さを知っていたから安易に僕を頼らせようとした。


僕が大学に入って1年目までは支倉と付き合っていたが、一緒に入ったサークルに清川彩音きよかわ あやねという人がいた。


結局なにが目的なのかよくわからないサークルだったので僕たちはいつの間にかサークルをやめていたが、彩音も一緒についてくるようにサークルをやめた。


まるで仲良し三人組のような様相を呈しながら、しかし彩音と支倉の間はいた。

彩音は僕が支倉を重たいと感じていることを正直に話させ、そして、支倉と別れさせた。


そして僕は彩音と付き合うことになり、



別れた支倉は、学校に来なくなった。



このまま何事もなくすれ違って、そのまま過ぎ去りたい。

僕は罪悪感と嫌な予感を胸に、心の中でそう祈って足早に心理学科棟へ行ってしまおうとした。


だが、すれ違う少し手前で、支倉は僕の目の前に立ちふさがった。

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