第八話 コンビ結成①

 現状、俺が行けるのはせいぜいEランク。

 それが光留がいればBランクダンジョンにまで容易に足を踏み入れられるというのだ。


 Bランクなんて俺が一から鍛えて潜ったら余裕で数年はかかるだろうと思える場所だった。


「私が加寿貴さんを連れて行けるのはBランクに限りません。上級冒険者になって、AやS、SSもいずれ踏破してみせます。加寿貴さんはその様子を撮ってくれればいいだけ。だから加寿貴さん、ぜひ私を使ってください!」


「でもそれじゃあタダで雇うってことになるんじゃ……」


 一度助けただけなのに、その恩返しと称して用心棒になってもらうのも過剰な気がしてしまう。

 ダンジョンとは常に危険が伴う場所。ソロならまだしも複数人の命の責任を背負うのは重いのだと言って単独で潜ることにした冒険者や配信者も多いと聞く。

 渋る俺に、光留は前のめりになって言った。


「なら、雇用関係はなしにしてコンビを組みましょうよ! 加寿貴さんがいてくれたら私としては心強いし、加寿貴さんは少しは安心してダンジョン配信ができる。一石二鳥です!」


 確かに、と俺は考えた。

 この前のように彼女が窮地に陥った時にいつも俺が助けられるわけではないのだ。中級冒険者向きのダンジョンに潜ったとしても、レア級モンスターに遭遇する可能性はある。戦力としてはろくに力になれないだろうが、最悪囮役くらいには活用してもらえるかも知れない。

 それに――。


 俺は初配信の時の多数のコメントを思い出した。

 レア級モンスターの出現についての書き込みも多かったが、それと並ぶくらいに視聴者が求めていたのは何だったか。


 そう、ずばり美少女だ。画面映えするのは絶対的に美少女なのだった。

 アイドル級に可愛い彼女がいてくれれば、再生回数がぐんと伸びること間違いなし。それすなわち俺の小遣いが増えるということ……!!


 一分弱ほど葛藤した結果、欲望の方が勝った。


「その話、乗った」




 彼女の希望したことなのだ、存分に利用して俺の稼ぎとさせてもらっても良いだろう。

 そんな風に自分を納得させつつも、本当にこの選択をしてしまって良かったのだろうかと思う。


 強制強化キノコを使ってたとはいえ、対スライム戦の時に彼女の凄まじい力を俺はこの目で見た。

 いずれは俺とコンビを組むには勿体無い冒険者に成長することは間違いない。彼女の言った通り上級冒険者になるのは確実だろうしSランクやSSランクを踏破できるほどの実力者になる可能性も高いだろう。

 そんな彼女を独占するに等しいわけで、躊躇う気持ちはもちろんあった。


 でももう決めたことは決めたことだ。

 差し伸べられる白魚のような美しい手に、そっと掌を重ね合わせる。


 美少女の手に触れているという緊張と興奮のせいで俺の体は不自然なほどにガチガチに強張っていたが、光留は嬉しそうに笑ってくれた。


「ありがとう。これからはコンビとしてよろしくね、加寿貴さん」


 砕けた口調になった彼女も可愛いと思いながら、頷いた。

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