Chapter2 少年は世界を見聞する

Chapter 2-1 『千年大樹の巫女』さんに会いたいです

 蒸気機関車の鳴らす汽笛の音が、風車の回る広野を吹き抜けていく。

 車輪の回る音が窓の外を駆けて行く中、そう多くはない乗客たちがそれぞれの席で談笑していた。


「大変ねぇ……。あなたみたいな小さな子が、一人で旅なんてねぇ」

「大丈夫ですよ。この子もいてくれるし、それにみんなからもらったお守りがありますから」

「ぷぎゅっ!」

「あらあら。これはこれは、心強いねぇ」


 老婆はみかんを剥きながら、向かいの席に座る幼子へと微笑みかける。


「はい、これはウチで採れたみかんなんだよ。お食べなさいねぇ」

「ありがとうございます! それじゃあ、いただきます!」

「ぷぎゅっ! ぷぎゅぎゅっ!」


 老婆に渡されたみかんを、幼子はその連れと分け合って食べる。


「すごい! 甘酸っぱくておいしいです!」

「そうかい? それはよかった」


 うんうん、と頷きながら、老婆は笑みを深める。

 確か、自分の孫もこれぐらいの歳だったろうか。白を基調にしたワンピースを身にまとった幼子を見て、彼女はこれから会いに行く孫のことを思い浮かべていた。

 孫がいくつになったのか、正直よく覚えていない。会うたびに見違えるほど大きくなっていくのを見ていると、流石にこの歳ではもう、覚えていられないというのが本音でもある。


 目の前の子がいくつなのか気になったとき、幼子が先に口を開いた。


「そうだ、おばあ様。一つお尋ねしてもよろしいですか?」

「ええ、ええ。構いませんよ」


 年齢不相応に礼儀正しい幼子に、老婆も少し身を正して応える。

 ちなみに、幼子の連れはみかんに夢中だった。


 幼子はありがとうございます、と礼を言ってから、


「『千年大樹の巫女』、と呼ばれている人を知りませんか?」

「ああ……。最近、よく耳にするお名前だけれどねぇ。ごめんねぇ、私もよく知らないんだよ」

「そうでしたか……。済みません、変なことを聞いてしまって」

「そんな、とんでもないよ。その人を探しているのかい?」

「ええ。世界の瘴気を祓う技を持っているという、『千年大樹の巫女』さん。一度お会いしてみたくて」


 幼子は、窓の外に視線を投げた。

 老婆はその瞳の力強さに、目を離せなくなっていた。今までこんな目をした子供を見たことがあっただろうか。


 やがて、機関車は次の駅に到着した。老婆は更に次の駅まで向かう予定だったが、幼子はここで降りるようだった。


 駅に降りた幼子と、老婆は窓越しに声を交わす。


「それじゃあね、お嬢ちゃん。気を付けるんだよ!」

「はい! みかん、ごちそうさまでした! おばあ様もお気を付けて!」


 出発する機関車を、幼子は手を振りながら見送った。


「よし、行くよウリボー!」


 機関車が遠く彼方まで走り去ると、幼子は連れのうりぼうとともに町へと向かう。



 七星きらめ、十二歳。前世で亡くなったときと同じ年齢になっていた。

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