Chapter 1-4 狩りをはじめます
きらめは準備運動をすると、枝の上を駆け出した。
両腕を振り上げ、背をそらせる。そうして反動を付けつつ、前に倒れこむように踏み切る。手を枝に付いて逆立ちのようになりながら、腕の力で起き上がる。いわゆるハンドスプリングである。
更に側転からのバック宙を決めて、着地。枝の先に綺麗に止まった……と思われたのだが。
「あ」
あまりに枝の先すぎて、きらめの身体を支えきれず大きくしなる。
そこから体勢を立て直すことはできず、きらめの身体は枝の下へ落下してしまった。
が、その数秒後には、大きく羽ばたく羽とともにきらめが浮き上がってきた。
「もう! 元気がありあまりすぎてるのよーう!」
ドラに引っ張り上げられながら、きらめは「ごめんね」と苦笑する。
「きらめの身体はどんどん大きくなってるんだから、わたしが持ち上げるのも限界があるのよーう!」
「そうだよね……。うん、気を付けるよ」
「素直でよろしいのよーう!」
きらめを枝の上に降ろし、ドラは大きく息を吐く。
「ありがとう、ドラ。大丈夫?」
「なんとか、平気よーう……」
息を切らしてはいるものの、絶え間なく羽を動かしている様子からも問題ないことがうかがえた。
きらめは微笑み、ドラの頭を撫でる。
「ふひゃ……!? く、くすぐったいのよーう」
「そう? でもなんだか嬉しそうだよ」
「ふ、ふひゃへへひょ!? ……い、嫌じゃないのよーう」
ならよかった、ときらめはドラの頭を撫で続ける。
そこへ他の妖精たちもやってくる。
「ドラ、気持ちよさそうなんだなー」
「ああいうのをラブコメって言うっしょ!」
むぎゅ、と悲鳴のようなよく分からない声を発して、ドラは顔を真っ赤にしてしまう。
「ディーもやってほしいしー」
そんなドラを余所に、パタパタときらめに近寄ったディーが、自分の頭を差し出す。
きらめは空いている手でディーの頭を撫でた。
「ぼくもー」
「あたしは遠慮しとくっしょ」
そうしてきらめは妖精たちが満足するまで、順番に頭を撫でてやった(ちなみに結局ルフェも辛抱できなくなった)。
きらめはみんなに触れているこの時間が大好きだった。前世では、きらめが自分から人の温もりに触れることは困難を極めた。だからこうしている時間が、きらめにとっては何物にも代えがたかった。
身体を動かすのもそうだ。神様からもらったこの身体は、きらめの思ったように動いてくれる。駆けまわる躍動感も荒くなる呼吸も、すべてが生きているという実感をくれた。
だからつい、動きすぎてしまう。
「そんな元気なきらめには、今日から狩りを手伝ってもらうのよーう!」
「狩り!」
「そうよーう? 働かざるもの……って!」
事前の脳内シミュレーションでは、ドラはこうなると思っていた。
きらめ「狩りなんて……こわいよ、ドラ」
ドラ「働かざるもの食うべからずと言うわ、きらめ。でも安心なさい? あなたのお姉さんであるこの私が、しっかり手取り足取り教えてあげるから……」
きらめ「ドラ……」きゅん
ドラ「きらめ……」キラキラ
「ドラ! 早く行こうよー!」
しかしこのきらめ、実にノリノリだったのである。
「ま、待つのよーう!」
ドラの理想のお姉さん計画は、次の機会に持ち越しとなったのだった。
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