ある異世界皇太子が婚約者を決めるまでの三日間の物語

@pusuga

第1話 一日目 午前十時 選べない婚約者リスト

 その日、俺の部屋のドアはノックもなく開放された。


 ガチャ


 「おい。パンナコッタ」


 「え!?あっ!はい!父上様!?」


 ビームが出そうな鋭さMAXの眼光を放ち、世界終焉の悪魔の様な形相で睨み付けてくる父上に、俺は着替え中でパンイチにも関わらず、直立不動でお出迎え対応。


 「明日までに、このリストの三人の中から婚約者を選べ!」


 「え? こ、婚約者を?」


 「そうだ。なんか文句あるのか?」


 「い、いえ、文句なんてそんな……」


 「だったら、明日の夕方五時までにワシの部屋に返事を持って来い!いいな?」


 「は、はいっ! わかりました!」


 俺は20歳と半年。

 父上が治めるこの、ナタデココ・ダンゴブラザー・ファービードール王国の皇太子でもある。 


 先日、父上の怒りが爆発した。

 俺は思い出したくも、説明したくもないほどの、精神全体が震えあがる恐怖、絶命一歩手前が脳裏によぎるほどの痛みを伴う、ありがたい指導を受けた。泣きながら許しを請いてもいた。

 更に一時間にも及ぶ指導の後は、五時間にも及ぶ、とても為になる説法を受けた。

 それ以来は父上の存在そのものがトラウマだ。


 もちろん俺が悪い。

 貴族は20で結婚するのが通例。

 しかし、俺は全ての縁談話を誰が見ても、お前完全に馬鹿にしてるだろ? と言う態度全開で断って来た。


 toothpick(爪楊枝)を咥えてシーシーしながら。

 鼻や耳をほじりながら。

 頭をかきながら。


 しかも成人貴族として、ろくに父上の公務を手伝う事もなく、庶民街に身分を隠して遊びに行きまくっていた。

 帰宅も深夜、朝帰り、泥酔状態とやりたい放題に独身を謳歌していた。


 そんな事を二年も続けて、遂に大魔道士でもある父上の怒りが爆発したと言う訳だ。

 ちなみに怒りの最初の電撃魔法、ライトニングスーパーズビズバーエレキの痛さは、全てを超越していた。


 父上が退出した後、パンイチから公務用のタキシードに着替えた俺は改めて、ペラペラの一枚の紙に綴られた、一人辺り情報20文字たらずのリストを見ていた。


 ◯マリリン家令嬢フラフープ 18才

 身長175センチ 

 趣味 手芸(リリアン編み) 花占い

 

 おいおい? この情報確かか?

 フラフープ嬢と言えば、身分が下の嬢をいびり倒してばかりいる、有名な男勝りの悪役令嬢だぞ? 手芸のしゅの字もない方だぞ? しかも花占いと言う事は、花びらを一枚一枚むしって 『好き……』 『嫌い……』 とかやってんのか?


 ◯ジュリアナ家令嬢ランバダ 18 才

 身長145センチ 

 趣味 天体観測(ハレー彗星に限る)

 

 「…………」

 もう、言葉がないな。

 ハレー彗星って次は76年後じゃないか?生きてないかも知れないぞ?

 しかも、ランバダ令嬢って確か体重100キロくらいあっただろ? 俺は165センチ55キロだぞ? 見た目は拘らないが、バランスを考えてくれよ。


 ◯シークレット


 は?

 おいおい、結婚はくじ引きじゃないぞ? いや、ある意味くじ引きと言われてる場合もあるが……。


 確か父上の仰ってた、期限は明日までだよな?

 決めれないから、とりあえずタキシードは着替えて庶民街に遊びに行くか。


 最後の晩餐代わりに。

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