第2話

次の日。



また昨日と同じように早い時間に学校に来てしまった。


来てしまったと言うと何か悪いことをしているかのように聞こえるがいいも悪いもないだろう。


そんなことを考えながら昨日と同じように誰も歩いていない静かな廊下を歩いているとまた図書館まで来ていた。


図書館に吸い寄せられているのかとも思ったがそんなことはない。


ただ俺が足を止める場所が毎回この場所というだけ。


入学式の時を覗いてまだ2回しかこの学校に来ていないのだから毎回と言っていいのかは疑問ではあるが。


俺は図書館の中に入る。



すると昨日と同じようにそこには1人の少女鈴原が椅子に座り本を読んでいた。


俺が入ってきたことに気づかないほどに本を読むのに集中しているのか本のページから目線を外すことはない。


本を読んでいる鈴原の邪魔にならないよう音を立てずに席に座り気配を殺す。


それにしても鈴原さんって本当に本を読んでる姿が絵になるよな。


少ししたところで今までずっと本を読んでいた鈴原が顔を上げる。


その時わずかに驚いたような表情を浮かべる。


鈴原が顔を上げ目があったところで見とれてしまっていたことに気づく。



何やってるんだ俺 !


ずっと顔見てたりなんてしたら気味悪がられるに決まってる!


どうしよう謝った方がいいのかな。


悩んでいると。


「すいません気づきませんでした」


やはり本を読むのに集中していて俺が目の前にいることにすら気づかなかったらしい。


本を読む邪魔になっていないんだったらよかったと胸をなで下ろす。


「今日も早いんですね」 


「別に早く来ようとしてきたつもりはないんですけどなぜか早い時間に着いちゃって」


「鈴原さんも昨日と同じで早いんですね」


「私は昔からですから」 


その言葉の意味はよくわからなかったがなんとなくこれ以上触れちゃいけないような気がしてそれ以上は何も返さなかった。


ただ単純に昔からこうして早く学校に来て図書館の本を読んでいるという話だろうか。


なんとなくそれだけじゃないような気がする。


だが俺にはその先を聞く勇気はない。


何よりまだ一度会話を交わしただけの人間に色々と尋ねられるのは嫌だろう。


「そうなんですね」


「実は今何か暇つぶしできる本がないかなと思って探してるんですけど何かおすすめの本とかありませんか?」


少しわざとらしい口調で尋ねる。


「何か好きなジャンルの本とかありますか?」


てっきり聞こえないふりをして流されるかと思ったがそんなことはなく読んでいた本から目線を外し尋ねてくる。


「いいえ特にこういうジャンルのものが読みたいとかはないんですけど」


「条件をあげるとするならお手軽に読める本がいいです」


少し悩んだような表情を浮かべた後咳から立ち上がり本棚の方に向かう。


何かを探すようにあたりを見回した後、何冊かの本を手に取り席に持ってきてくれる。


「これなんてどうでしょうか?」


「これは?」


「すごく簡単に説明すると主人公の女の子がいろんな人との出会いを得て精神的に成長していく物語りってところですかね」


「その隣にある本はホラー小説で一つ一つの独立した短いお話が入ってるのでもし最後まで読めなくても大丈夫だと思います」


しばらく考えて最初に説明してくれた本を借りることにした。



この部屋に入ってすぐ横にあるテーブルに置かれている紙にクラス番号と自分の名前を書いて本を借りる。


昨日と同じように小説に関して色々と教えてもらっている最中少し遠くの方から他の生徒たちの喋り声が聞こえる。


「それじゃあ俺はそろそろ行きますね本のことについて教えてくれてありがとうございます」


言って俺は図書館の後にした。


学校の授業を終え家に帰り早速おすすめしてもらった本を読んでみる。


「あら、あなたがそういう本を読んでるなんて珍しい」


「別に本なら結構読んでるし珍しいことでもないだろう」


その証拠に俺の部屋の本棚にはラノベの本がぎっしりと並べてある。


「それはそうだけどあなたが呼んでるのって今時のやつでしょ だからそういう難しそうなやつを呼んでるの珍しいと思って」


「それで何か用?」


「ただ単に学校はどうだったかなと思って少し気になって」


「いや特に何ともなかったよ」


「ていうかまだ短縮授業だしどんな感じかなんてわかんねえよ」


「春樹…」


「何?」


「なんでもない」


そう言って扉を閉める。


その態度に違和感を抱きつつ本の方に視線を戻す。


「学校生活か…」


少なくとも小学校の時に関しては面白いと思ってなかったな。


面白いって思ってなかったっていうより何とも思ってなかったって言う方が正しいか。


頭を本を読む方に切り替え読み進めていく。


しばらく読み進めているとリビングの方からお母さんの声が聞こえてくる。


「夜ご飯できたよ」


面倒くささを含んだ口調で言葉を返しリビングの方に向かう。



「いただきます」


「学校で友達できた?」


「まだだけど」 


「そう…」


「よくわかんないけどしばらくしたらいつのまにかできてんじゃない」


別に作るつもりはないけど。


余計な心配をかけないためそう返しておく。


「学校で何か面白いことあったら教えてよ」


「なんでわざわざ」


「いいじゃない別に家族なんだから楽しかったことを共有したって」


「いろんな話聞かせて」


「分かった分かったから」


「とりあえず今は面白い話何もないからあったら言うよ」


そんな話をしていると、家のチャイムが鳴る。


「はい」


お母さんがインターホンのカメラで誰が来たのか確認する。


「父さんおかえりなさい」


母さんはそう言いながら父さんが脱いだスーツをハンガーにかけロッカーにしまう。


「ただいま」


「それでどうだったんだ学校は?」


同じ質問をされ心の中でため息をつく。


親だから仕方がないのかもしれないが高立て続けに同じ質問をされるとさすがに疲れる。


「特に何ともなかったよ」


と思いながらも言葉を返す。


でも俺が小学校の時にあんなことになっちまったんだからそれは心配もするよな。


今度の学生生活は変なトラブルに巻き込まれないといいけど。


ごちそうさま、と言って自分の部屋に戻る。


さっきの本の続きを読んでいると何やら少し気になる文章があった。


鳥かごに囚われた心という何気ないただの比喩表現の文章だがなぜかその文を読んでいると鈴原の顔が脳裏によぎる。


「何を考えてるんだ俺鈴原さんとはまだあったばっかだろう、何を知った気になってるんだ」



頭を横に振本を読むことだけに集中する。


俺が普段ラノベを読んでいて本を読むことに慣れているというのもあるかもしれないが、1時間半でその本を読み終えてしまった。


正直もっと時間がかかるかと思っていたので時間を持て余してしまう。


「あの時紹介してくれたもう一つのホラー小説の方も借りてくればよかったな」


「明日の朝面白かったって言いに行かないと」


「あーでも明日必ずあの図書館にいるとは限らないか」


一瞬どうしようかと考えたが会えなかったら会えなかったで会えるまであそこで本を読みながら待ってればいいかと思い、考えがまとまったところで一息つく。


この少し持て余した時間をどうしようかと考え途中まで読み進めていた小説を読むことにした。


「そういえば鈴原さんラノベとか読むのかな?」


エンタメ小説を読むことはあると言っていたがラノベを読んでいるとは言っていない。


「読んでるかどうかわかんないけど明日もしいたら聞いてみようかな」


不思議とワクワクした気持ちに戸惑いながらも本を読み進める。

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