5・【影】との戦い

 回避をした【影】5人のうち2人はヒトリに襲い掛かり、残りの3人はミシェルとトーマの後を追いかけようとわきをすり抜けようとする。


「行かせない!」


 ヒトリが小型ナイフ3本を取り出し、わきをすり抜けようとしている3人に投げようとする。


「させるかよ!」


 襲い掛かって来ていた【影】の1人がショートソードを抜き、ヒトリに向かって降り下ろす。

 ヒトリは体を捻って斬撃を回避し、相手の腹を蹴りつつ小型ナイフを3人に向かって投げつけた。


「――!」


 3人は投げられた小型ナイフに反応し1人は後ろへと飛び、もう2人はそれぞれ木の枝に飛び乗って回避をする。

 木の枝に飛び乗った2人は、そのまま他の枝をつたってミシェルとトーマの後を追いかけた。


「待ちなさい!」


 ヒトリは両手にナイフを持ち、枝をつたっている2人に追撃しようとする。


「このっ!」


 だが、ナイフを取り出した【影】に攻撃されて追撃を邪魔をされる。


「っ……いってぇじゃねかよ!」


 蹴られた【影】も体勢を整え、ショートソードで再度襲い掛かる。

 2人同時に攻撃され、ヒトリは防戦一方となってしまった。


「……ちっ舐めた真似をしてくれる」


 足止めを食らった【影】の1人は鎌を取り出し、防戦一方になっているヒトリに向かって走り出す。

 逃げたトーマとミシェルはすり抜けた2人に任せ、ヒトリの排除を優先する形を取った。


「――っ! 足止め出来たのはたったの3人か……! どうか逃げ切って!!」


 ヒトリは両手に持っているナイフを強く握りしめ、【影】の3人との戦いの火ぶたが切られる。




「はっ! はっ! おいっ! もっと早く走れ!」


 トーマがお腹のリュックを押さえているミシェルに向かって叫ぶ。


「はあっ! はあっ! 一生! 懸命! 走ってる! わよ!」


 そうは言うが、明らかにミシェルの速度は卵のせいで遅くなっている。


「はっ! はっ! くそっ! 今は少しでも早く関所に戻って、救援を求めないといけないのに……あっそうだ! その卵を、その辺りの木の陰に隠してしまおう! そうすれば身軽になる!」


「えっ!? でもっ」


 トーマの提案にミシェルは少し戸惑いを見せた。


「今は駄々をこねている場合じゃない! ヒトリさんの命もかかっているんだぞ!」


「そ、そうね! わかっ――」


 ミシェルがリュックを降ろそうとした瞬間、地面に鉄串が数本刺さった。


「――たっ!?」


 背後を振りかえると、少し離れた木の上に2人の【影】の姿があった。


「うそっ! ヒトリさん、やられちゃったの!?」


「……いや、追って来ているのは2人だ! 後の3人と戦っているんだろう!」


 トーマはミシェルの手を掴み、引っ張る様に走る速度をあげた。

 鉄串を指の間に挟んでいる【影】の1人が、2人に向かって何回も鉄串を投げつける。


「くそっ! あいつ何本持っているんだよ!」


 トーマは悪態をつきつつ、必死に走る。

 しかし徐々に距離を詰められ、飛んで来る鉄串が体をかすり始めた。


「っあぶな! もう! 頭に来た!」


 ミシェルがトーマの腕を払い、立ち止まった。

 そして振り返り、右手を【影】達の方へと向けた。


「おい! ミシェル!」


「食らいなさい! フレアボム!」


 ミシェルが叫ぶと、【影】達の目の前で爆発が起きた。


「どうだ!」


 ミシェルが得意げな顔をする。

 だが、爆煙の中から傷一つなく【影】の2人が飛び出してくる。


「嘘でしょ!? フレアボム! フレアボム! フレアボム! フレアボムウウウ!!」


 ミシェルが爆発魔法を連続して撃つが、【影】達は回避しつつドンドンと距離を詰める。

 そして【影】の1人がスティレットを取り出し、近接戦闘の態勢をとった。


「くそっ!」


 逃げられないと判断したトーマは、迎え撃つ為に剣を抜いて構えた。


「こうなったら……トーマ、少し時間を稼いで!」


 ミシェルは目を瞑り、両手に魔力を集中し始めた。


「時間って……1対2でか? 無茶を言ってくれる!!」


 トーマは【影】達に突っ込み、気を引くようにがむしゃらに剣を振り回した。

 しかし、トーマの剣は【影】達にかすりもしない。

 逆にトーマの体は傷つきどんどん血まみれになっていく。


「っミシェルまだか! これ以上は――」


「………………よしっ! トーマ!!」


 ミシェルの叫びに、トーマはバックジャンプをして【影】達から距離をとった。

 突然のトーマの行動に【影】達は一瞬動きが鈍くなる。


「食らいなさい! グラビティフィールド!」


 その一瞬の隙にミシェルが重力変化の魔法を放つ。

 【影】達の足元に大きな魔法陣が出現した。


「――グッ!」

「――ぬっ!?」


 魔法陣が光ると同時に【影】達が地面に押しつぶされた。


「……くっ……何だ……これは……」


「……っ」


 【影】達は起き上がろうと体を動かす。


「ちょっと嘘でしょ! 起き上がろうとしている!」


 ミシェルが驚きの声をあげる。


「……マジかよ」


 この重力魔法を食らった事のあるトーマは1発で気絶したので、【影】のタフさに驚いた。


「こ、こうなったらもっと威力を上げ――ゴホッ!」


 ミシェルが突然苦しそうに咳き込んだ。


「ゴホッ! ゴホッ! ……嘘……こんな時に……」


 そして、ふらつて倒れそうになる。


「ミシェル!?」


 トーマは急いでミシェルの傍に駆け寄り体を支えた。


「……むっ?」

「……動けるぞ」


 地面の魔法陣が消え、重力にとらわれていた【影】達が起き上がった。


「どうした!? ミシェル!」


「――ゴフッ!」


 ミシェルが鈍い咳をしたと同時に口から血を吐いた。


「血!? おい、ミシェル!」


「よくわからんが、好機の様だな」


 【影】達がトーマとミシェルの前に立った。

 仮面をつけていても、薄ら笑いを浮かべているのが見える。


「よくもやってくれたな……」


 【影】の1人がスティレットを構えた。


「――死ねっ!」


 スティレットの刃先が、トーマとミシェルに向かって突かれる。


「はあっ!」


 女性の声と同時に金属音が鳴り、スティレットが空中を舞って地面に突き刺さる。


「何っ!? お前はっ!」


 スティレットを弾き飛ばしたメレディスが【影】達を睨みつける。


「王国騎士だと!?」


 鉄串を持っていた【影】がメレディスに向かって投げようと構えた。


「私もいるぞ! ふんぬっ!」


 今度は男性の声がし、1人は槍の柄で腹を、もう1人は尻尾で顔面を殴られる。


「――がはっ!!」

「――ぷぎゃっ!!」


 殴られた衝撃で2人は同時に吹き飛び、木の幹に激突して動かなくなった。

 メレディスが素早く【影】達に近づき状態を確認する。


「……2人とも気絶しています」


「わかった。では、今すぐ拘束を」


「はい」


 メレディスは道具袋からロープを取り出して【影】達の腕を縛り始めた。

 その間バァルは警戒して辺りを見わたす。

 そして安全と判断して槍を下ろし、トーマとミシェルの傍へと寄りしゃがみこんだ。


「すまない、駆けつけるのが遅くなった」


「王国騎士……? どうして、ここに?」


「森の奥から爆発音が聞こえてな。何かあったと思い、来てみれば……まさか【影】に襲われていたとは」


 バァルが腕を縛られている【影】達を見る。


「……あっ! ヒトリさん! ヒトリさんを助けてくれ!」


「どういう事だ?」


「俺達を逃がす為に、他の【影】達と戦っているんだ! あっちだ! 早く!」


 トーマが森の奥に向かって指をさした。


「なんだと!? メレディス、ここは頼んだぞ!」


 バァルが立ち上がり森の奥へと走り出した。





 戦闘現場に到着したバァルは、目の前の光景に驚きを隠せなかった。


「……なんと……」


 数多くの折れ曲がった枝、数多の切創がある木々の幹。

 ここで壮絶な戦いが行われていた事がよくわかる。

 そんな場所で、ボロボロの格好したヒトリが気絶した【影】3人の体をロープで巻いていた。


「君、1人で3人倒したのか……?」


 ヒトリはバアルの声に反応して振り返った。


「え? あっ……バ、バァルさん? どっどうして……ここに?」


「君の連れに言われて、駆け付けたんだが……」


「あっ……そ、そうなんですか……じゃあ2人は無事、なんですね? ……良かったで……す……」


 ヒトリは糸の切れた人形の様にその場に倒れ込んだ。


「おい! 大丈夫か!? しっかりしろ!」


 バァルが慌ててヒトリに駆け寄って抱き起した。


「す~……す~……」


 ヒトリは寝息を立ててすやすやと眠っていた。


「ね、眠っているだと? ……一体なんなんだ、こいつは?」


 バァルは首を傾げつつヒトリを抱え、【影】3人を引き摺って関所へと向かった。

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