第8話メンタル強男は覚悟を決める

しばらく呆けてしまっていた。

近くを歩いていた知らないおじさんも突然の告白にこちらをみて「おー…」とか言ってる。やめろ、見るな。


「えっと海ちゃん、聞き間違いじゃなければ、今のは告白…ってことかな?」

「好き!!!付き合って!!!」


海ちゃんはまだ興奮してるのか、声がでかい。例のおじさんも、落ち着いて来たのかニヤニヤしだした。やめろ、見るな。


「海ちゃん!とりあえず一旦落ち着こう!ここで大きな声だと周りに迷惑をかけちゃうから!」

「…はっ、ごめんちぃにい。あまりに突然の報告だったから、我を忘れちゃってた。」


落ち着きを取り戻した海ちゃんは、声が小さくなり、周りに聞こえなくなったのか、野次馬おじさんもがっかりしていた。去れ!


「…少し話をしようか。途中に公園があるからそこに行こう。遅くなりそうだったら、俺がおばさんに連絡するから。」

「うん、ちゃんともう1回話させてほしい!お願い!」

「じゃあ公園まで行こうか。寒かったら言ってね。ちょっと汗臭いかも知れないけど、部活で使ってたジャージならあるから。」


漫画とかでよくある『ほら、寒いだろ。着なよ。』みたいにかっこよく上着を貸すことができたらかっこいいんだろうけど、残念ながら今の俺にはこの汗臭ジャージしかない。


「ちぃにいのジャージ…くしゅんっ、ちょっと寒いかも!」


…そうでした、変態さんでした。部活用のバッグから、ジャージを取り出して、制服の上からかけてあげた。


「ん…はぁ…すごい…さっきより…すごいよぉ…」


汗の匂い以上に危険な香りもしてきたので、さっさと公園まで行って話を聞こう。

海ちゃんの手を取り、公園に急ぐのだった。




「それで海ちゃん、さっきの言葉なんだけど…」


公園について誰もいないベンチを見つけたのでそこに二人で座って、話を始めた。


「さっきのは告白…ってことでいいんだよね?」

「はい…あってます…」


先程までとは打って変わって、顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに答えた。


「えっと…一応聞くんだけど、勢いで言っちゃったとか、別れて可哀想だからとか、そういうのではないんだよね?」

「違うよ!私はほんとにちぃにいが好きなの!そこには絶対に嘘なんてない!」


海ちゃんの必死な顔をみて、もしかしたらでもそんなことを考えてしまった自分が情けない。


「うん、ごめんね。疑っているわけじゃないんだ、ただの事実確認。それで、海ちゃんは俺のことが好き…ってことなんだけど、それはいつからだったの?」

「…ちぃにちのことが好きだ、恋人になりたいって自覚したのは、ちぃにいとお姉ちゃんが中学校を卒業した日だよ。」

「そうなんだ…そんな前から…。申し訳ないんだけど全然気づけなかったよ。」

「それは私が気持ちを隠してたから。ちぃにいにも、お姉ちゃんにも気づかれちゃ駄目だって。ちぃにいに気づかれて気まずくなっちゃうのも、お姉ちゃんに気づかれて気を遣われちゃうのも、絶対に嫌だったの。」


ふむ…俺等が中学卒業ってことは、海ちゃんはまだ小学校を卒業したばかりの頃だ。そんな子供の頃から、そこまで気を遣っていたなんて、海ちゃんはもう立派に大人になっていたんだな。


「なるほど。でもそんな恋した日をピンポイントで覚えてるなんて、何かきっかけでもあったかな?あの日、海ちゃんとは会った覚えがないんだけど。」


なんとなくの好奇心で聞いてしまったこの質問に、後悔することになる。


「うん…あの日ってさ、ちぃにいとお姉ちゃんの…初体験の日だったでしょ…?」

「え”っ!?」


なぜそんなプライベートがバレているんだ、あの日はたしかに、空に誘われて二人きりの卒業式もやった日だった。


「お姉ちゃんがちぃにいを連れて、早く帰ってきたから、一緒に遊んでもらおうと思って部屋の前に行ったら…その…声が…。」


恥ずかしそうに言う海ちゃんだが、俺も相当恥ずかしい。まさか、彼女の妹、それも自分も妹の様に可愛がっていた海ちゃんに、初体験のことを知られてしまっていたなんて。


「それは…その…お聞き苦しいものを…」

「うん…最初はなにしてるのかわからなかったんだけど、すぐに学校の授業で習ったやつだって…。気付いたら自分の部屋に戻ってたんだけど…すごく悲しくなってきて…涙が止まらなくて…。」


当時を思い出したのか、同じ様に泣きそうな顔になっている。


「その日までは、ちぃにいがお姉ちゃんと結婚すれば、ほんとのお兄ちゃんになってもらえるんだって言われて、喜んで。だから二人のことも祝福してたし、応援もしてたんだけど…。その日にね、気付いちゃったんだ。私はちぃにいの妹になりたいんじゃなくて、恋人になりたいんだって。でも、もう遅かった。ちぃにいとお姉ちゃんは恋人だったから。」


悲し気な顔をしながら、言葉を続ける。


「子供の3歳差って…残酷だよね。お姉ちゃんとちぃにいが付き合いだしたのって中2だよね?で、私は小6で、お姉ちゃんより早く、自分の恋心に気づけた。でも、遅かった。二人が大人になった時、私は子供だった。それがとても悔しかったの。」

「…。」


俺は何もかける言葉が思いつかなかった。


「だから私は、自分の恋に蓋をしたの。もう間に合わないなら、せめて二人には気づかれないようにしようって。二人を応援しようって。恋人にはなれなかったけど、お兄ちゃんにはなってもらえるからって。それで、近くでちぃにいをずっと想い続けられるなら、それもとても幸せだって。自分に言い聞かせて。」

「そうか…」

「でも!さっき別れたって言ったよね!?お姉ちゃんと別れたんだよね!?だったら、もう遠慮なんてしなくていいんだよね!?私の恋、伝えてもいいんだよね!?」


海ちゃんは必死にうったえてくる。


「だったら付き合って!恋人にして!また間に合わない、もう遅い、そんなことには絶対になりたくない!告白をする勇気もなかった私だけど、このチャンスだけは絶対に逃さない!もう後悔なんてしたくない!お願いちぃにい…お姉ちゃんのかわりでもいいから…お姉ちゃんと同じ髪型にだってするから…だから…私を好きになって…」


最後は涙を流しながら、必死の言葉を紡いでくる。


「海ちゃん…俺は、海ちゃんに空の代わりなんて求めてないよ…。海ちゃんは海ちゃん、空は空。代わりにするつもりもないよ。」

「……。」


海ちゃんは拒否されたのかと、更に悲しげな顔になる。


「正直、今日まで俺は、海ちゃんのことを本当の妹の様に思ってた。子供の頃からいつも俺たちの後ろを付いてくる、可愛い妹だ。その気持ちに変化はない。」

「……。」

「でも、今、海ちゃんの言葉を聞いて、それじゃ駄目なんだって気付いた。海ちゃんが覚悟を決めたんだ。兄だと言うなら、俺も変わらないといけない。」


正直、空に未練がないわけではない。本当に大好きだった幼馴染だ。

しかし、どんな事情があるにしても、浮気をしていた。それをごまかそうと冤罪をかけようとした。それを、今の俺は許せるのだろうか。


たぶん今の俺の心は弱っているんだと思う。

大切な人たちに裏切られ、弱った心に、こんなにも熱い想いを伝えられる。これに、抗える人はいるのだろうか。もし、心が弱っていない時に聞いたら、こんな気持ちにはならなかったのかも知れない。


でもそんなことは関係ない。たとえ流されているんだとしても、この想いは確実に、自分のものだ。嘘偽りない、今の自分の想いだ。だから俺は、素直に伝えよう。



すぅっと息をすい、心を込めて言葉を吐く。




「俺も海ちゃんが好きだよ。空の代わりなんかじゃない、妹としてでもない。一人の女の子として、海ちゃんが好きだ!どうか、俺の恋人になってくれないか?」





その言葉を聞いて、涙は止まらないが、笑顔になってくれた。


「はい!よろしくお願いします!」


そう言うと、俺の胸に飛び込んできた。

俺は、自分の汗臭いジャージ越しに、海ちゃんを抱きしめた。





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軽い寝取られざまぁ作品を書こうと思ってたのに、思ってたよりシリアスになってきた…

なんか主人公が軽い感じがしたのでちょっとだけ追加しときまし

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