第10話 友達

私は今日もいつもの喫茶店に来ていた。

窓際の特等席から外をながめていると、突然大黒がぬっと現れて手を振った。

思わず振り返すと、かすかに微笑んで、大黒も喫茶店に入り、私の目の前に腰掛けた。


最近、私がくるタイミングを見計らったかのように、ここでコーヒーを飲みながら仕事をしていると彼が現れるのだ。


「大黒こんにちは、きょうもクリームソーダ?」


私は彼が美味しそうにクリームソーダを食べる姿をみるのが好きなのでそう質問してみた。


「いや、今日はね、真剣なお話があるからコーヒーにする」


真剣なお話

コーヒー


大黒がいうとなんだか可愛い。

でも、真剣な彼の様子を見て、私も背筋を伸ばして座り直した。


一体どんな話なのだろう、

もしかしてお金かしてとか?だったら困るな。私もそんなに裕福ではない。


そんなことを考えていると、

大黒はふっと笑った。


「おれお金とかは困ることがないから平気、もっと重要な話」


「あ、ごめんね、急に真剣なお話っていわれたから、じゃあどんな話なの?」


「おれは千鳥が好きだ。一人の女として愛してる」


(スキダ アイシテル ヒトリノオンナトシテ)

頭のなかでカタカナのテロップが流れる。


大黒が、私を?

いつから、まだ出会って間もないのに、愛しているっていえるほどお互いのことも知らないのに?


「え?ドッキリ?」


私はとりあえず、動揺を隠すように笑って答えた。


「いや、真剣なお話。俺はおまえに会った夏祭りでクリームソーダの缶をもらった。

俺はね、人に与えるのが仕事、生まれてこのかたずっと与え続けてきた。何かをもらったのって初めてだった。その時びびっときたんだ。俺のお嫁さんはこの子だって」


そんな昔から私のことを好きでいてくれたというのか。

私は内心驚いた。


「そんな・・・私はそのことを思い出せないのに、貴方の思いに私は釣り合わないんじゃないかな」


「それは気にしなくていい。これからゆっくり好きになってもらえたらそれでいい」


大黒はゴツゴツして大きな手を私の手に重ねてじっとみつめてきた。


「でもさ、俺はこのまま千鳥に言いよって、千鳥が諦めるまで告白し続けることもできるけど、それはフェアじゃないって分かっているから。あいつのこと思い出してから、もう一度答えをだしてほしい」


「え?あいつって」


私が不思議に思っていると、大黒は私の手をつかんで店の外に連れ出した。


「行こう。情けない恋敵だけど、俺の古くからの知人だから。俺たちが行っても逃げ出すかもしれないけど、おれは正々堂々千鳥と結ばれたい。だから行くんだ。」


そう言うと私の手を引いて、街をぬけ、山道を登り、私の家の近くにある廃神社の近くまで来た。


「心の準備はいいか?」


大黒は振り返って真剣な顔で私に問いかける。


「うん・・・」


私はわけもわからず頷いた。

サワサワと澄んだ風がふく


砂利道の参道には石造りの鳥居があって、鳥居の上には小さな小石が沢山乗っていた。


「昔、私もやったことある。石を投げて鳥居の上に乗っかったら、願いが叶うんだって」


私は足下にあった小石を2個ひろい、大黒に一つ渡す。


「やってみようか」


「ん。」


大黒は小石を受け取るとひょいと鳥居に向かって投げた。

その時急に突風がふいて、大黒の小石は鳥居の向こう側に落ちてしまった。


「残念だったね。願い事はなんだったの?」


「千鳥と夫婦になりたい」


「エエッ!?」


確かに告白されたけど、いきなり夫婦なんて、私は動揺しつつも、自分も小石を投げた。


願い事は最近のモヤモヤがなくなりますように。

それだけ。


コロン


石は鳥居の上に見事に着地。


「やったな」


大黒は優しく微笑んで頭を大きな手でなでてくれた。その横顔はなんだか寂しそうで

私は思わず手を伸ばして、つま先立ちになって大黒の頭をなでた。


「千鳥?」


「えっと、なんだか寂しそうだったから。」


そうしてしばらく髪をなでた後、私は鳥居に手をそわせてそこをくぐる。


その時だった。

鳥居を一歩くぐっただけなのに、世界が変わった。


外から見たときにはただの寂れた廃神社だったのに、

庭にはいちめんの朝顔。

社も綺麗に掃除がされていて、心なしか綺麗になっている。


「なに・・・これ・・・」


私は息をのんだ。

おそるおそる社に近づき、鈴が沢山下がったしめ縄をゆすった。

リンリンリンリン 

涼やかな音色が響く。

私はその音を聞いたことがあった。

トタトタトタと聞こえてくる足音の主を知っている。

そして、なにより、この社の主のことも


「私は知っている。私は・・・私は・・・」


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