第5話 久々の登校


 なんとか金稼ぎについての目処が立った。

 バレなきゃだけど。犯罪だし。


 「き、緊張する」


 翌朝である。母さんは既に仕事に行っている。

 出る前に今日はしっかり行くように釘を刺されたのでおサボりは許されない。

 しかしだ。40歳間近だった俺が、今更中学生に溶け込めるのだろうか。かなり不安である。


 「だ、ダメだ。煙草吸いてぇ…」


 未来では中々のベビースモーカーだった俺。

 昨日はなんとか我慢してたが、そろそろ限界である。

 大っぴらに吸う事も出来ない。なにせ中学生なので。


 「うぅ。不便ばっかりだ…。母さんが寝てる間に何本かくすねておけば良かった…」


 後でどうにか買う手段を考えよう。

 幸い母さんも喫煙者なので匂いはなんとか誤魔化せるだろう。多分。きっと。めいびー。


 「よし。行くぞ」


 意を決して外へ出る。

 なんだか制服がコスプレに見えてないか不安である。挙動不審になりながら歩いてるので不審者みたいに見えるかも。


 「圭太!!」


 「あ、梓!」


 そこに救いの女神が。

 途中から梓が合流してくれたお陰でかなり気が楽になった。


 「制服って恥ずかしくない?」


 「気にしすぎよ。堂々としてなさい」


 梓さんはもう割り切ってる様子。

 とてもじゃないけど、俺はその領域までいけないよ。


 「おはよー!」


 「おっはー!」


 学校が近付くにつれて生徒が増えていく。

 知り合いっぽい人達が挨拶してくるので、なんとか不自然にならないように返していく。


 「やべぇな。マジで誰が誰だか分からん」


 「そうね。困ったわ」


 顔は分かる。あぁ。こんな奴居たなって思うんだけど、いかんせん名前が出てこない。

 これは当分苦労しそうだ。


 「俺って何組だったっけ?」


 「私と一緒で三組よ」


 靴箱の場所すら分からんってやばいよな。

 名札が貼ってあったから良かったけど、無かったらここでもあたふたしていた筈だ。


 「せ、席は?」


 「覚えてる訳ないじゃない」


 教室に入ってもまた苦難。

 座席表とかないのかね。なんて回帰者に優しくない学校なんだ。

 未来から過去に戻って来た人の事も考えてほしい。


 「おーい、圭太! そんな所にぼーっと突っ立って何してんだ?」


 「お、おう!」


 えーっと。そうだ! まさるだ!

 よしよし。こいつとは仲良かったから覚えてるぞ! 高校に行ってから疎遠になったが。


 「ほら! 早く座れよ。昨日なんで休んだんだ?」


 席を指差してくれる。どうやらそこが俺の席らしい。なんかそんな気もしてきた。

 梓の方は大丈夫かとチラッと見たけど、既に女子トークをしていた。

 適応力半端ねぇな。


 「いよっと。で? 昨日はどうしたんだ?」


 「起きたら頭が痛かったんだ。登校時間も過ぎてたし休もうかなって」


 「そうか。もう大丈夫なのか?」


 「ああ」


 俺の机に座って話しかけてくるまさる。

 確かこいつは良い奴だったはず。

 素直に心配してくれてるんだろう。


 「もうすぐ中間テストだぜ。調子はどうよ?」


 「控えめに言って最悪」


 「そんな事言っていつも平均以上じゃんよー」


 中間テスト…。

 点数取れる気しないんだが。

 どうやら俺は平均以上の点数を取れる人間らしい。これ、競馬とか行ってる暇ないのでは?

 中三の勉強とか出来る気がしないんだが。


 その後も雑談していると予鈴がなる。

 そして担任の先生がやって来て朝のHR。

 連絡事項を話し終わると一限目の授業が開始だ。


 (良かった。英語はなんとかなる)


 英語の授業を聞いてるけど普通に理解できるし、文法も簡単だった。

 中三の英語ってこんなに簡単だったっけ?


 (学力の数値のお陰か? 30しかないんだけど)


 これならなんとかなりそう。

 そう思っていた俺に楽はさせねぇぜとばかりにやって来たのは数学だった。


 (? 証明とは? 覚えてる訳ないだろ。ってか見たら一緒って分かるじゃん。証明する必要ないだろ。はい。QED)


 数学は要勉強である。

 正直、何言ってるかほとんど理解出来なかった。


 なので、教科書を一から読み込んでいく。

 すると、なんとなく朧げにだか分かるようにはなってきた。

 学力30も捨てたもんじゃないな。これは家に帰って中一の教科書からしっかり読めば案外簡単に理解出来るかも。


 梓は大丈夫かな? と思ってチラッと見てみると向こうもこちらを見ていた。

 どうやら梓も手こずってる様子。

 二人して大学も卒業してるというのに情けない。

 帰って二人で勉強しましょうね。



 その後もなんとか授業をこなしてその日は終了。

 俺と梓は部活に入っていないので、すぐさま帰宅である。部活をするにもお金がかかりますので。


 「やばかったな」


 「若返ったって実感したわね。話題が古過ぎて対応に苦労したわ」


 俺も。流行りのドラマの話とかさ。

 覚えてる訳ないんだって。確かにこの頃は面白かったなって思い出したけども。

 そんな詳細なシーンを覚えてる訳もなく。

 ひたすら愛想笑いで躱し続けたわい。


 「勉強もやり直さないとやばいわよ。数学は教科書を読んでるうちになんとか理解出来たけど。歴史や地理の暗記ものなんて一からやり直しするレベルよ」


 「俺は化学とか理科方面もやばい。教科書を読んでもちんぷんかんぷんだった」


 「前途多難ね。これから放課後は勉強にあてましょう。学力30がどれだけのものか分からないけど、容姿50でこの顔よ? 30でもそれなりに出来るはずだわ」


 それな。過去に戻ってやりたい放題だぜって浮かれてたけど、こんな落とし穴があるとは。

 しっかり勉強しよう。今苦労すれば、未来は明るいぞ。

 

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