ダンジョンへ行ってみよう

 学校を終え、帰宅。時計の針を見れば15時59分。


 そろそろか。


 『ノア』の中で横たわり、俺はライブオンラインの世界にログインした。


(マスター、おかえりなさい)


 メティ、ただいま。


(本日もよろしくお願いします)


 よろしく。


 メティとの挨拶を終えると、


「アオイ君、お待たせしました」

「俺も今ログインしたところだよ」


 お待たせしました・・・・・・とは、言われたものの、別に約束などは交わしていないカリンがいつも通りログインしてきた。


 ライブオンラインのβテストが開始された先週はバラツキがあったし、土日はお互いに時間を決めてログインした。今週に入ってからは昨日、一昨日と、口に出して決めたわけじゃないけど俺もカリンも現実の時間で16時にログインをしていた。


 毎日一緒に遊ぶのが当たり前になったし、一緒にいる時間は心地が良い。


 虎太郎以来だな、ここまで気が合うフレンドは。


 今は自然と同じ時間でログイン出来ているが、口に出して約束したほうがいいのだろうか?


 人生においても、オンラインゲームにおいても気の合うフレンドは何よりも得難い存在だ。


 とは言え、時間指定までするのは・・・・・・束縛が強すぎるか。


 ログインする時間がズレたらその時に考えよう。


「アオイ君、今日はどうしますか?」


 なんて、つまらないことを考えているとカリンから声を掛けられた。


「そうだな・・・・・・とりあえず、ダンジョンに行ってみるか?」

「ミランちゃんも誘いますか?」

「誘おうか」

「それじゃ、メールしますね」


 カリンは端末を操作し始める。端末にはフレンド登録してあるプレイヤーにメールを送る機能が備わっていた。


「・・・・・・ミランちゃん、無理みたいです」

「そうなのか?」

「なんでも、生産職を選んだプレイヤーは初心者クエストⅥをクリアするために、私たちとは違う連続クエスト? とかいうのがあるみたいです」

「へぇ。何か手伝えることがあれば言ってくれ、と伝えといて」

「はい!」


 ミランに断れるのは想定外だった。


「ミランは無理かぁ・・・・・・」

「どうしましょうか? ダンジョン攻略ガイドによると、パーティーを組んだほうがいいんですよね?」

「そうだな。パーティーを組むなら、タンクとヒーラーの募集になるが・・・・・・」

「あんまり乗り気じゃないです?」

「んー、そうだなぁ・・・・・・」


 βテストだし、開始から間もないし・・・・・・いないとは思うが・・・・・・野良だと、初めてのコンテンツに挑むときは『動画を見て予習してから来い!』みたいなことを言ってくる奴いるんだよなぁ・・・・・・。


「み、ミランちゃんにもう一度お願いしましょうか?」


 俺は変な表情でも出ていたのだろうか。カリンは何か勘違いしたようだ。


「違う、違う。そうじゃなくて・・・・・・えーっと、実験? 様子見? 偵察? 何て言えばいいんだ・・・・・・とりあえず、2人で行ってみないか? あ! カリンが良ければだけど」

「え、えーっと……私はいいのですが……大丈夫でしょうか?」


 俺からの突然の提案に、カリンは動揺する。


「当然、安全であることを最優先して進む。2人だけなら、遠慮することなく撤退も出来るし、自分たちのタイミングで進むことも出来るし……と思ったけど……ごめん、やっぱ募集しようか」


 話しながらカリンを見ていると、段々と自信がなくなりトーンダウンしてゆく。


「あ、え、えーっと、私は2人で大丈夫ですよ!」

「いや、無理はしなくても大丈夫だから」

「本当です! 無理とかしてないですから! 本当に! 大丈夫ですから!!」

「参考にも慰めにもならないかもだけど……俺の現実リアルの知り合いが、ソロで挑んでて平気っぽいから、多分……俺とカリンの2人でも大丈夫だとは思う」

「わかりました! がんばりましょう!」

「危険を感じたら、即帰還な!」

「はい!」


 こうして、俺のダンジョンデビューはカリンと共に果たすこととなった。


「ダンジョンの場所は……」


 俺は端末を操作し、『ダンジョンアプリ』を選択。


 すると、端末の画面上に金沢市の地図の表示された。


「この赤い点がダンジョンなのか?」


 地図の中央らへんに表示された赤い点をタッチすると、


『カナザワダンジョン

 侵度  1

 コア数 162』


 ダンジョンの情報が表示された。


「えっと……ってことはダンジョンの位置は……」

「この緑が兼六園だと思うので……香林坊こうりんぼうじゃないですか?」


 現在地が金沢駅で、二本の流れる川の間にある緑地が兼六園だとすれば……ダンジョンが存在する位置は香林坊だ。


「香林坊かぁ……駅からだと歩いて30分ほどか?」

「お祭りのときに香林坊から駅まで歩きましたが、そのくらいでしたね」

「こっちだと道路が整備されていないし、道中でゴブリンの邪魔もはいるだろうから……45分〜60分ってところか?」

「ですね」

「ポーションのストックはOK?」

「はい!」


 カリンは腰に差したポーションホルダーに触れ、頷く。


「それじゃ、ダンジョンに向かいますか」

「はい!」


 俺とカリンはダンジョンを目指して、カナザワシティを後にするのであった。

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