第5話「頭領?」

 優はサングラス男に付いていきながら、アジトの中を見回していた。内部は外から見えた部分以上に奥まで続いており、廊下を歩いているだけで、子供達と遊ぶ筋骨隆々な青年や忙しなく動き回る白衣姿の少女など、およそ暴力団という言葉には似ても似つかないような人々を見つけることが出来た。


「ねえ、君は...」

じゃねえ。俺の名前はデュークってんだ、覚えときな」

「了解...デューク」

「ここは、何の施設なの?」

「あん? あんたが自分で言ったろ。ここは浪梅組の拠点、だ。それ以上でも、以下でもねぇ」

「...そう」


 釈然としない顔をする優を尻目に、デュークは広い廊下を悠然と進み続ける。そうしていると、予め扉の開かれた部屋の中から、小さな子供が走り出してきた。

 

「あっ、やっぱりデューク兄ちゃんだ!」

「おう、星雨シンユゥじゃねえか。どうした?」

「あのね、あのね...」

 

 デュークはその厳つい風貌に反して意外にも子供達に好かれているようで、星雨と呼ばれた子供が嬉しそうな顔をして話すのを、穏やかな顔で聞いていた。

 ひとしきり話した後、星雨は優の方を向いて、少し不思議そうな顔をして言った。


「デューク兄ちゃん、この人はだれ?」

「ん? ああ、こいつか。そういえば、まだ聞いてなかったな。あんた、名前はなんて言うんだ?」


 デュークの言葉に小さく頷いて、優は2人に名乗る。


「篠田って言やあ、その昔は科学者の家系だろ? それが軍事官か。ったく、世も末だな」


 たっぷりの皮肉を込めたような物言いに、優はただ、苦笑いをするしか無かった。


……………………………………………………


「ここだ、入んな。」


 星雨と別れ、そこから少しだけ歩くと、施設の奥には他より少し大きな両開きの扉があった。デュークに続いて扉の中に入ると、整理された書類が積まれた重厚な造りの机に背を向け、窓のそばで片肘を突いて背の高いスツールに座る妙齢の女性が居た。ただ荒廃とした街を映し出す窓を眺める彼女の横顔は儚げで、景色に溶け込むようだった、が。


「客だぜ、頭領」


 デュークの声を聞くや否や、彼女は眉を顰め、辟易とした顔で彼を非難しながらこちらへ歩いてきた。


「その呼び方をするな、といつも言っておるじゃろデューク! 全く貴様はいつもいつも! わしは浪梅組を暴力団にするつもりはないと言うに!」


 ずいっと詰め寄る彼女に、咄嗟に言い訳をし始めるデューク。


「でっ...でもよぉ頭領。やっぱし俺も立場があるっつうか、売られた喧嘩は買わなきゃ面子がが立たねぇし...」

「だから頭領と呼ぶなと言っておるじゃろ阿呆! 面子などどうでもいいではないか、そんなとこで足踏みするような器なのか貴様は!?」

「...ええ」


 突然の2人の押し問答に困惑する優であったが、幸い置いてけぼりにされる事なく、ぷんすかという擬音が出ていそうな女性は優の方を振り向いた。


「おお、御仁。すまんの、身内の見苦しいところを見せてしもうて。高圧的じゃろ? 此奴は。なかなか頑固な奴でな...」


 そう言って不貞腐れたような顔をしているデュークを横目で見て溜息をつくと、デュークは所在なさげに少し目を泳がせた。


「はぁ...まあなんじゃ。あんなじゃが、根はいい奴じゃ。見逃してやってくれんかの?」

「は、あ。ええと...はい...?」

「だいたいお前は威圧感が強過ぎるんじゃばかものめ。ここは極道の集会場じゃないんじゃぞ? 全く...」

「もういいだろそれはぁ!?」

「ふん」

 

 デュークの泣き叫ぶような訴えを聞いて苦い顔になる優へと向き直り、女性は不遜な顔をして言った。


「それではそろそろ本題に移ろうか、どうやらデュークの質問には、合格したみたいだしの」


 彼女がそう言った瞬間、その場の空気が圧力を増した。


「名乗っておこうか。儂の名はノイント、またの名を2

対政府秘匿反抗勢力レジスタンス「浪梅組」の初代座長をしておる者だ」

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