第14話 愛が重い!!

 麻音さんが勝利してから数日後の放課後。私は多目的室に呼び出されていた。相手はもちろん麻音さん。どうやら勝者の権利を行使するらしい。


「なんでも命令していいのよね?」


「まぁ、そういう罰ゲームだから」


 ただ、金銭が関わるものとか、あんまり無茶な要求はしないでほしい。ただ、四の五の言える立場でないことはわかっているから、何も言わず、ただ麻音さんの答えを待つ。


「……正直、私は優芽に負けて欲しかったのだけれど」


「はいはい、料理が下手ですいませんね」


 明らかに残念そうな顔をする麻音さんにちょっと腹が立つ。そもそもこの勝負、最初から私に勝機があったか怪しいところだし。


「それで?何を命令するの?」


「それについてなんだけど、あなたに選択権を与えようと思ってね」


「選択権?」


 麻音さんらしからぬ温情があり、少し動揺してしまう。もっと冷徹で躊躇なく人をこき使いそうだと思ったけど、案外優しいのかもしれない。


「えぇ。優芽と一生関わらないのと、この学校から転校するのどっちがいい?」


 前言撤回、クソ野郎だこいつ。って、なんかこんな流れ前にもあったような……まぁいいか。流石にそんな条件は飲み込めない。


「流石に、周りに迷惑がかからない程度にしてほしいかな……」


 おい、何しょんぼりしてるんだ。当たり前だろ、そんなこと許すわけないだろ。


「そうね。じゃあ、もうすぐ優芽の誕生日だし、一緒に選んでくれない?」


「えっ、まぁいいけど」


 そんな簡単なことでいいのか。靴を舐めるくらいは覚悟していたから、少し拍子抜けした。いや別に、舐めたかったわけではないが。


「じゃあ今から買い物行くわよ。ついてきなさい」


 そう言って教室を出ていく麻音さん。流石に行動が早すぎやしないだろうか。そもそも、優芽さんの誕生日まではまだ一ヶ月もあるし……まぁ、いいか。






「さて、どれがいいかしら?」


「あのー、麻音さん?」


「何かしら?」


「ここはどこですか?」


「どこって、高級ジュエリーショップだけれど?」


「いや絶対おかしい!!」


 値札を見れば、少なからず六桁。高ければ七桁後半に届くものもある。絶対に誕生日にあげるものを選ぶ場所ではない。


「うーん、どの指輪にしようかしら」


「しかも指輪限定!!愛が重い!!」


 なんで私はこんな高級店の中でツッコミをしているのだろうか。いや、そもそも高校生が高級ジュエリーを買おうとしていること自体が、おかしいのだけれど。


「あなた、ツッコミばっかりしてないで、少しは考えたらどうなの?」


「誰のせいだよ誰の」


 本当にこの人は頭がおかしい。一回脳みそを別のものに交換した方がいいんじゃないのだろうか。

 私の思いも知らず、麻音さんは真剣に商品を見つめる。一個一個吟味するその姿は、さながら鑑定士のようだった。


「はぁ、わかったよ。それで?どういうのをあげたいの?」


「なんでもいいわ。あぁでも、あまりにも華美なものはやめてちょうだい」


「はいはい」


 そう言われて私も探してみるが、正直どれもあんまり変わんない。素人目からしたら、高級そうだなぁくらいの感情しか湧かない。


 半ば探すのをやめつつ、麻音さんのことを考える。

 優芽さんと関わり出して間もないけれど、優芽さんがどういう人物かよくわかる。だからこそ、麻音さんがここまで固執する理由がわからない。わざわざこんな高いものを買ってあげるなんて、まるで金で関係を繋ごうとしているみたいだ。そんなことしなくとも、優芽さんなら麻音さんとずっと一緒にいるだろうに。


 ちらりと麻音さんを見る。その姿は凛々しく、男女問わず惹かれる姿であろう。所謂美少女と呼ばれる容姿を持ち、料理もでき、お金も持っている。そこまで持ってして、一体なぜ、優芽さんとの関係を縮めたがるのだろう。


 私が思案していると、麻音さんの視線がこちらに向く。どうやら私が何もしていないと気づいたらしい。はぁ、とため息をつき、麻音さんが近づいてきた。


「あなた、私に見惚れるのはいいけど、しっかりと考えなさいよ」


「考えてるよ」


 平然と嘘をつき、改めて商品に向き直る。すると、先ほどまでは目につかなかったが、一ついい指輪を見つけた。

 ばつ印のようにリングが交差し、真ん中にダイヤモンドがあしらわれた指輪。


「何か見つけたの?」


「ま、まぁ」


 見つけた指輪を教えると、冷静な顔のままだが、少し口元が緩むのが見える。

 けど、私がいいと思った理由は、優芽さんに似合うというよりはむしろ……


「ありがとうございました」


 店員さんの言葉で思考が現実へ戻る。目の前では会計が終わり、もうすぐ店を出ようとしている麻音さんが見えた。

 急いで向かうと、そこには満足そうな顔をする、1人の恋する乙女がいた。そこには、先ほどまであった焦りはなく、むしろこれから待ち受ける未来へ歓喜するような表情だった。

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