第7話 のけ者にされている優芽さん

 家に帰り、お風呂やら晩御飯やらを終わらせ、自室でスマホを見てると通知が来た。そして気づいた。

 私、SNSの名前とか変わってないし、クラスグループ入ったままじゃん。どうしよう。友達になったのもそのままだし、新たにアカウントを作ろうかな。

 少し思案しながら、通知を開く。相手は杏子だった。


『ごろごろしてる頃ですかね~?』


『なに?もしかして監視カメラ付いてたりする?』


『あ、当たったんですね。てか、SNSの名前もそのまんまとか、本当に隠す気あるんですか~?』


 隙あらば煽ってきやがる……ま、まぁ?美少女になった私が?それくらいで怒ったりしませんし?


『私も気づいて、アカウント作ろうと思ってたんだよ』


『ふーん。じゃあこれ、私のIDなんで、今作って今登録してください』


 そう言って杏子は続けてIDを送る。なぜかまくしたてるように言ってくる杏子に、画面越しに威圧されながらも、アカウントを作って杏子を登録する。


『せんぱい、ありがとうございま~す♪』


 ……まったく、調子のいいやつだ。でも、画面の向こうで喜んでると思うと、少しほほえましい。

 もしかして私、案外ちょろいのでは?時雨しかり、杏子しかり。喜んでる姿を考えたがけで、別にいいかなという気持ちになってしまう。さすがに、よろしくない傾向だ。


『それで、私に用があったんじゃないの?』


『あ、そうでした。せんぱい。お風呂やお手洗いに困ってません?女の子の体って、男の頃とはだいぶ違うと思いますし』


『いや、あんまり困ってはないかな……』


 その辺は、時雨が手伝ってくれたし、さすがにもう一人でいろいろできる。わざわざ誰かの力を借りることもない。それに、杏子だし。何するかわからない。


『むぅ。先輩を私色に染め上げようと思ったのに……』


『何する気だったの!?』


『えっ、せんぱい。私に言わせるんですか……せんぱい、そういうプレイが好きなんですね……で、でも!私、頑張りますね!!』


『急に何を言ってるの!?何プレイって、私何も言った記憶ないんだけど!?』


『もう、せんぱいったら……』


 杏子とは、こういう冗談が言い合えるから、気軽に話せる。これから先、女の子として生きるうえで、息抜きのできるいい友達になれると思う。まぁ、男だった頃から、杏子はいい友達だったんだが。


『さて、もう寝るよ。おやすみ』


『あ、はーい。おやすみなさい、せんぱい』


 かわいいうさぎのスタンプが送られるのを確認すると、画面と目を閉じる。昨日までは学校が少し不安だったが、優芽さんや杏子がいるし不安もなくなって……いや、麻音さんがどうなるかわからないなぁ……やっぱり、不安。

 一抹の不安を覚えつつ、私はまどろみの中に落ちていくのだった。




「おにぃ、朝だよ。遅刻するよ」


「ん、みゅぅ……もうちょっと……」


「もう……」


 眠い中、近くに体温を感じる。なんか、だんだんと近づいてきている気がするような……


「ッッッ!!!??」


 唇に、柔らかい何かが触れる。いや、何かじゃない。唇に唇が触れた。明らかにリップ音がしたし、時雨の吐息も聞こえた。


「どう?目が覚めた?」


「……ひゃい」


 すっかり目が覚めた私は、学校へ行く準備をしてから、一階へ降りる。時雨はいつも通り座っているのだが。


「あれ、氷雨さんは?」


「なんか、起きてくれなかった。気持ち悪いみたいだし」


 絶対二日酔いじゃん。また女の子ひっかけてきたのかな。まぁ、いつものことだし気にしない。犯罪とかに手を染めてなければいいけれど。


「そんなわけで、今日の朝はおにぃを独り占めできる♪」


 と言いながら、時雨は私に抱き着いてくる。昨日の登校時といい、やっぱり私を惚れさせようと色仕掛けしているのだろうか。ふふふ、しかし時雨よ。私は今更そんなことじゃドキドキしないぞ?むしろこっちから反撃してやる。


「じゃあ、私も時雨を独り占めできるね」


 私は抱きしめる力を少し強めながら、頭を撫でる。撫でていくうちに、だんだんと時雨の顔がとろけていく。そしてもはや、他の人には見せられないような顔にまでなってきた。

 さすがにこれ以上はだめだと思い、撫でるのをやめ、時雨から離れる。もうそろそろ学校に行く時間だ。


「時雨、学校行こうか」


「はぃ……」


 顔を赤らめながらこちらを向く時雨は、少し色っぽい。うん、これ逆効果だな。私がドキドキする。もちろん、時雨もしているだろうが、私までドキドキしてしまったら意味がない。なでなでとぎゅーは、封印だ。




「おはよう」


「お、おはよ~!」


 私が声をかけると、少しぎこちなくなる優芽さん。昨日麻音さんが言っていた、優芽さんが私に好意を持っているというのは本当なのか。どうなんだろう。


「麻音さんも、おはよう」


「……おはよう、月島さん」


 少し不機嫌そうな顔をしながらも、麻音さんは私に返事をしてくれる。この子、もしかしてツンデレ?もしそうなら、ツンが少し多いとは思うが。

 心の中でふざけていると、耳元に麻音さんが来ていた。


「あなた、月島白雨……なのよね?」


 小声で言ってくれる当たり、大々的にバラすということはしないのかもしれない。まぁそもそも、麻音さんの中で、まだ半信半疑なのだろう。今まで冴えない男の子が、絶世の美少女になったら、誰だって疑う。


「うん、まぁそうだね。こんな姿になっちゃったけど」


「つまり、私はあなたの弱みを握ったということね?」


 前言撤回。絶対バラす気だ。しかも、それを材料に脅される。麻音さん、君はツンデレじゃない。ただの悪魔だ。

 ただ、こちらも全く対抗できないわけではない。一応、脅せるだけの材料はあるのだ。


「そうだね。でも、麻音さんの恋愛事情という弱みを、私は持ってるよ?」


「それが?私は他人の目なんて気にしないわ」


「他人の目?違うよ。私は、優芽さんに告げるよ」


 私がそういうと、目に見えて麻音さんが動揺した。麻音さんがまだ告白する勇気がないのか、そもそも好きだということがバレたくないのか定かではないが、この状況は私にとって優位……ではないが、対等までは持っていける。


「……なら、お互い秘匿にするということでどうかしら?」


「賛成。それじゃ、これから仲良くしようか。麻音さん」


 私が握手を求めて手を差し出すと、麻音さんはそれに答えてくれた。全力で握るという答えで。


「よろしく、月島……いえ、白さん」


 さて、一見落着。麻音さんとはお互いに不干渉を決めることで、なんとか友好を保てたし、結果オーライということで。

 まぁそんな中、私と麻音さんをにらんでいる人物もいる。それは


「ずるいよ麻音ちゃん!!私も会話に混ぜてよ!!!」


 のけ者にされている、さっきまでぎこちなかった優芽さんだった。

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