第4話 いつになったら妹離れできるのだろうか

 あの出来事から数日後、氷雨さんが制服を持って来てくれた。どうやら高校への入学が決まったらしい。高校もクラスも変わらず、不便がないようにしてくれた。だけど、一応編入扱いになるから転校生扱いされるのは許してほしい、だそうだ。


「うーん、眼福」


 改めて、この人が男だったらセクハラで逮捕されていると思う。目の前にいる氷雨さんは、私の制服姿を見て、目をギラつかせている。まぁ、控えめに言って私は美少女だし?当然といえば当然だが。

 ただ、そんな雰囲気とは一変して、氷雨さんが急に真剣な顔つきになる。


「それで、一応設定を考えて来たんだ」


「設定?」


 どうやら、とは別だから、過去や現在の環境などの設定を考えてくれたらしい。というわけで、まとめてみるとこんな感じ。


・名前は「月島 しろ

・月島白雨とは入れ違いで転校

・月島白雨とは親戚で、白雨が転校したのと同時期ということで、月島家に住まわしてもらうことになった

・時雨と白雨とは仲がいい

・彼氏なし


「彼氏なしって設定いらなくないですか!?」


「いやいや〜、男ウケするでしょ?」


「ホモは嫌ですよ……」


 そう、今こうやって女の子の体になって、恋愛対象まで男に変わるなんてことはなく、女の子が好きなままである。正直、男に欲情しない。かわいい女の子の方が好き。ってここだけ聞くと、まるで百合を望んでいるようだけれど、そもそも恋愛とかしたことがないからな。よくわからない。


「で、あと何か必要な設定とかある?てか正直、今決めなくても、臨機応変に立ち回ってくれればそれでいいよ」


「んー特にないですね。臨機応変に……できる気がしませんが、ボロがでないようにはします」


 そんなこんなで、氷雨さんと話し合いをしていると時雨が帰ってきた。

 最近、時雨とは少し距離がある気がする。キスをして少し積極的に来るのかと思ったが、そんなことは全くないらしい。

 私は、時雨の思いにどう答えたらいいのだろうか。確かに時雨を大切に思ってはいるが、これは家族愛。いや、わからないが、そうだと思いたい。


「おにぃ?」


「うわぁ!?」


 少し時雨について考えていると、時雨の顔が目の前にあった。どうやら何回か呼んだが、まったく返事がなかったらしい。氷雨さんもいつの間にかどこかに行っているし、結構考え込んでたのかな。無視しちゃってごめんね、時雨。


「おにぃ、なんか考え込んでたけど、どうしたの?」


 ここで「時雨の想いのことを考えていたんだよ」なんて言える勇気はない。さて、どう言い訳しようか。


「えっとまぁ、明日の学校について……かな」


「あー学校。明日から登校するんだ」


「うん。でも、正直不安で……」


 この不安というのは、本当に思っていることだ。これから白雨ではなく、白としてやっていけるのか。もう形成されている女子グループに入れるのか。うまく白雨とバレないようにできるかなど、様々な不安が私を付きまとっている。

 そんな考えをして、暗い顔でもしていたのだろうか。突然、時雨が私のことを抱きしめてきた。暖かく、けれど強い。それはまるで、あの日の確固たる意志の瞳のような抱擁だった。


「し、時雨?」


「おにぃ。別にうまくいかなくったっていいと思うよ。最悪、クラスメイトとはあまり話さなくても生活できるし、昼休みのお弁当は付き合うよ。だからさ、あんまり悲しい顔しないでよ」


 涙をこらえる。こんなちっぽけなことで。いや、甘えたいのか?

 わからないが、今の時雨は、間違いなく私を助けようとしてくれている。私を恋人として求めるのではなく、対等な人として見てくれていた。だからこそ、この不安も薄れていっているのだろう。


「ありがとう時雨。でも大丈夫だよ」


 私のいるクラスには、誰にでも分け隔てなく接してくれる明るい美少女と、その付き添いの凛々しい美少女がいる。どうしてもなじめない場合、その二人に相談することもできるだろう。女の子として生きていけるかは不安だが、それでも学校生活を送ることくらいはできる。


「時雨、明日一緒に登校しよっか」


「え?」


「ほら、最近一緒に登校することなんてなかったでしょ?だからさ、どうかな」


 時雨は驚いた様子を見せるが、すぐに表情が変わり喜びの目になる。今までずっと望んでいたかのような、そしてこれからを期待するような表情になる。


「す、する!えへへ、おにぃと久しぶりに登校……♪」


 こうやって喜ぶ姿が、時雨には一番似合う。これから毎日とはいかなくても、時雨が望む限り一緒に登校してあげよう。

 私はいつになったら妹離れできるのだろうか。とりあえず、高校のうちは無理そうかな。いつか離れる、その時まで私が全力で守ってあげよう。全力で笑顔にしてあげよう。そう決意を固めた。

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