第2話

「……うーん」


 目が覚める。あたりを見回すと、そこは草原だった。めっちゃ広い草原だった。こんな広い草原俺の暮らす街には絶対にない。奈良公園の鹿も裸足で逃げ出すくらいに当たりには草と木しか無い。ついでに本当に裸足で逃げ出したのだろうか鹿もいない。


「……ふむ」


 記憶を辿ってみる。俺は目覚める前一体何をしていたのだろう。エロ妄想か? それともエロネットサーフィン? いや違うドM筋トレか? いや、それとも姿見の前で凌辱淫語ダンスを……、いや違う、思い出した。俺はさっきまで”ドM散歩”にふけっていたのだ。先月編み出した新しいオカズ探索法だ。通行人を視界に入れながら、その人にいじめられる妄想を脳内で膨らませて帰りに公園でPCを開き、その妄想を文章で記録して家で読み返して絶頂するという超画期的な自慰法だ。たしか俺はその途中で妄想に耽りすぎて交差点に入って、デカいトラックが……、あ、あれ?


 と、そこまで考えて俺は絶望的な疑問に思い至る。


 あれ? 俺、死んだんじゃね?


 だってそうだろう。トラックはすげーデカくてすげースピードだった。しかもまっすぐに俺の方に突っ込んで来てたし、避けれるわけもなく……。


 と、いうことはここはどこだ? 天国? 地獄? アストラル世界? いや、どれも違うだろ多分。そういうのってなんかこう、こんな普通の草しか無いようなとこじゃなさそうだし、うーん。


 じゃああれか? 生まれ変わり? 俺は普通に死んで、普通に生まれ変わった? 実は俺今赤ちゃんなのか?


「……えーっと」


 俺は慌ててズボンのチャックを下ろし、手を突っ込んでその中身を取り出して確認する。


「いや、……完全に俺のちんこだ」


 チャックから出てきたのは、いつも通りの、親の顔より見た俺のみすぼらしいちんこだった。さっき妄想のことをちょっと思い出したせいで気持ち元気が宿っている。


 うーん、じゃあ、なんだ? 俺は今、俺だ。性欲とドMだけが取り柄の、左曲がりなジュニアを持つ俺。じゃあ、俺は生きているのか? でもそうだったら目覚めるのは普通に病院だろう。ここは草原だ。


 ピコーン。


 と、そこでなんかファミリーで遊戯に耽るコンピューターっぽい音がなり、空中に黒い板が現れる。そこにはどこかで見たことありそうな文字のられるがあった。


タイゾー

HP:9999

MP:9999

Lv:1


「ふむ……」


 これは、なんというか。あれだよな? あの、RPGのステータス的なやつ。そんで名前が”タイゾー”って多分俺だよな。と、いうことはあれは俺のステータス?

 

 ぐちゃぐちゃになりそうな思考を俺はなんとか整理して、情報を一つずつ脳内で繋げていく。えーっと、ドM、妄想、トラック、第事故、よくわからない場所、生きてる、ステータス画面、HPとMPバチクソに高い。


「……これはもしや」


 あれか? あれなのか? 俺は、異世界転移、というやつをしてしまったのだろうか。あの、近頃アニメとかで流行っている、急に事故とかで死んだ不幸な奴が女神的な人からチート能力もらって異世界で無双してたくさんの女の子からモテモテになり世界を救って称賛されて世界単位の英雄になったりするあれに? この俺が?


 そんなの……………、


「最悪だーーーーーー!」


 凶悪な想像が頭に浮かんだ瞬間、俺は思わず叫んでしまっていた。ドMな俺が、ドSな姉さんから蔑まれて無価値だと思われて、なんの躊躇いもなく暇つぶしに性的な玩具にされることに恋い焦がれているこの俺が、世界中の女の子からモテモテになって称賛されるだと? 一体俺はどうすればいいんだ。いや、まだ望みはある。俺はまだこの世界のルールを知らない。もしかしたらHPとMPが9999というのは普通の事かもしれない。そしてそれがヒットポイントとマジックポイントであるかどうかさえ不明だ。だから俺はさらなる情報に望みを託して、声がかすれる程に叫んだ。


「ステーーーータス、オーーーーーーーー、プン!!」


 するとさっきのパネルの横に、もう一枚の黒いパネルが現れる。


 タイゾー

 

 職業:プロのマゾヒスト

 Lv:1

 HP:9999

 MP:9999

 力:1

 体力:1

 素早さ:1

 知能:1

 精神:1

 魔力:1

 運:1

 EXP:0

 SP:0


「ほかは全部、……1だ」

 パネルに現れた文字を確認すると、自然と涙が溢れてくる。


「うっ、うぐっ、……ううう」


 全く、憧れのドS姉さんからの凌辱を一度も体験しないままに、自分のステータスからの凌辱を受けるなんて、そんなの、


「最高だーーーーーーーー!!!」


 握った拳を突き上げながら叫ぶ俺の声は、長く、長くこの草原に響き渡るのだった。

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