第2話 心臓(Aneurysm)


夏。屋上。

「あー、あつい。」

「ハエ、たかってきたね。」

「おー、追い払おう。」

炎天下。お互いにエナジードリンク五本目。心臓やばい。

「やだ、ご飯腐ってる~。」

「ああ、俺コンビニ行ってくる。」

「やだ、やだやだやだ、いかないで。」

「でも、腹減ったし。」

「いい。いいから。いかないで。ね?」

「う~ん。おっ、傷治ってきたじゃん。」

「え?だめ。またひっかかなきゃ。」

「もうやめとけよ。」

「だめ。この傷があたしなの。う~。」

「うわ、とても見てられねぇ。」

「ねっ、みてみて。この傷、勇太の顔に似てない?」

「そうかな?」

「かわいい。」

「なんか、ニルヴァーナのイン・ユーテロのジャケット思い出したわ。」

「なにそれ、おいしいの?」

「おいしい音楽、だな。」

「ききたい。」

「今度、聴かせてやるよ。それよりもう、いい加減放してくれないか?

腕が取れちまうよ。」

「やーだ。」

「人と人とはずっと一緒にはいられないんだ。」

「やだ。」

「な?また今度会えばいいじゃん。」

「勇太も私を捨てるの?」

「す、捨てないよ。」

「すてないで。」

…という内容の小説を、「時雨凛」は友達に教えられて、読んだ。

かつての幼なじみはもう、あらゆる見境がなくなってしまったようだ。

現実と妄想の区別も、ついていない。

凛は一言、こう言った。

「キッモ。」

と。心臓。心臓で笑って。

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