邪眼使いは奴隷に落とされ日々を謳歌する

ユズリハ

プロローグ

 少女は十字架にはりつけにされた。掌を釘で打ち付けられ、血が腕を伝い地へ落ちる。

 人々が少女へ石を投げては叫んでいた。形は違えど見えるのは憎悪。

「早く処刑しろ‼ 悪魔に取り憑かれた魔女め‼」

 腰までの波打つ銀髪に、左右の灰色の眼。その異端な容姿が魔女だと連想させるのか。

 このくすんだ眼は、『邪眼じゃがん』と呼ばれるものだ。人を射殺す呪いの眼。

 類稀たぐいまれなる邪眼を持つ者達は、『邪眼使い』と称され物忌まれた。

 少女はこの地で惨殺を行った。

 壇上の領主が、おぞましいその罪を告げていく。

 沸く歓声に紛れて、少女は掌の釘を無理に外した。より一層重みを増す罵声を無視し、粗暴に地面へ降り立つ。

「構わん。早くやれ」

 領主の一言で、死刑執行の流れは止まらない。

 少女を取り囲む騎士達が、一斉に剣を振り上げる。

 ——ザンッ。

 髪が散り、血を撒き散らして首が落ちる。頭は跳ねて転がった。


「——いタ、イ」


 突如、誰もが意識を向けていた少女の頭から声が漏れた。

「いたイ、イタい、イタイ」

 少女の理性が瓦解がかいし、ただただ痛みに吠える。

 錆びた臭いが鼻を衝いた。

 棒立ちしていた胴体は首を求めて歩き、転がる首を拾い上げた。自然な所作でそれを胴体にくっ付ける。骨肉同士が溶け合い、首は何事もなかったかのように元の状態へ戻った。

 血濡れの少女は、何も読み取れない〝無〟の瞳で世界を見上げる。灰色の眼に紫の陣が浮かび、妖しく光った。

 ——この身に溢れる呪力を、言葉と視線に乗せて。


「呪いあれ」


 邪眼が肉体を貫き、静かな声音が脳に届く。

 グシャリ、ぐしゃり、グシャリ、グシャリ。少女の言葉を聞き、その視線を受けた騎士達が潰れた。

 唖然とする観衆ギャラリーを背に、少女は血溜まりの上を歩いて去る。その跡に、大きな波紋が幾つも広がった。

 ボロボロだった体は、自然と再生している。


「呪いあれ」


 少女の呪いが、銀のバラが花笑む季節を告げた。

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