乗っ取り

神楽堂

第1話 ママ友

私はママ友が嫌いだ。


同年代の子を子育てしている母親同士、集まっていろいろと情報交換をする。

それ自体は役に立つことも多いし、悩みを聞いてくれたり、逆に自分が相談に乗ってあげたりと、ママ友との交流のすべてが嫌いというわけではない。


しかし!


どうしても反りが合わないママ友がいる。


そのママ友は、話題の中でやたらとマウンティングしてくる。

旦那の自慢や子供の自慢だ。

散々、自慢話をした後、


「オタクはどうなんですか?」


と聞いてくる。

私が答えると、なんだ、その程度か、といった勝者の笑みを浮かべて私を見下してくる。


あ~~~~!! 腹立つ!!


自慢話だけなら聞き流せばいいのかもしれない。

しかし、そのママ友は悪口もかなり言うのだ。

もちろん、その場にいないママ友の悪口だ。


ということは、私がいないときは私の悪口を言っているかもしれない。

それを想像すると、とても嫌な気持ちになる。


その悪口に乗っかって、自分も同調する発言をしてしまうと、


「○○さんがそう言っていましたよ」


なんて、私が主になって悪口を言ったことになって広められてしまう。

だから、下手に相槌も打てない。


とにかく、関わらないのが一番なのだが、狭い世間で暮らしている以上、どうしても生活の中で顔を合わせなければならない場面がある。そこはうまくやっていくしかない。


しかし、ついに我が子に被害が出てしまった。


そのママ友の子に、我が子が突かれて大怪我をさせられたのだ。

当然、私は抗議しに行った。


すると、そのママ友は、


「子供がしたことですし、それに、悪気はなかったんですよ。子供同士のことですから、お互い様ということで……」


などと言ってきたのだ!!


もう許さん!!

私自身がひどい目に遭ったのなら、私が我慢すればいいだけのこと。

しかし、何の関係もない我が子が被害にあったとなれば、話は別だ。

こればかりはどうしても許せなかった。


あんなやつ、いつかひどい目に遭えばいいのに……


私は、そのママ友を毎日、呪うようになった。


* * *


あ、ここまで話を聞いていただいてありがとうございます。

の世界にも、嫌なママ友って、いるでしょ?


え?


私は何者だって?


あははは……

申し遅れました。

私は「鳥」です。


そう、パタパタと空を飛ぶ、鳥。


人間の子供たちは、学校の「えいご」の時間に、


I wish I were a bird.


「私は鳥だったらよかったのに」


なんて例文を習うそうですね。

私たち、鳥に憧れてくれてありがとうございます。


けどね、先ほどもお話した通り、鳥の世界もいろいろとあるんですよ。

人間さんは、鳥は自由の象徴みたいにとらえているみたいですけど、私たちは巣を作って子育てしているので、意外と狭い社会で生きているんです。

そして、嫌なママ友と一緒に社会生活しないといけない。


あぁ、渡り鳥さんたちみたいに、どこか遠くに行ければいいのに……


なんて思ったこともあるのですが、渡り鳥さんたちも群れで行動しているので、それはそれで、いろいろとあるみたいです。

みんな、苦労しているんですね。


さて、私には嫌いなママ友がいる、というさっきの話の続きなんですが、この後、我が家にとんでもない事件が起きてしまいます。


よろしければ、私のひとり語りをこのままどうか聞いてください。


* * *


私の子供は、嫌いなママ友の子に、くちばしで突かれて大怪我をしてしまった。


抗議しても、うちの子に悪気はなかった、仲良くなろうとしてやった、うちの子は優しい子だ、などと言い訳ばかり言って、まったく謝罪の態度が見られなかった。


怪我をさせられた我が子は、ある日、よたよたと歩いていたところを……



キツネに食べられてしまった。



私には、子が一羽しかいなかった。

私は、そのかけがえのない我が子を失ってしまった。


あのママ友の子に怪我をさせられていたせいで、キツネに追われても飛んで逃げることができなかったのだ……

それで、私の子はキツネに食い殺されてしまった。

私の子は、ママ友の子に殺されたのも同然だ。


その憎きママ友は、私に向かってこんなことを言ってきた。


「お気の毒様でしたね。でもね、親がちゃんとしていないからこんなことになるのよ」



!!


なんだと!!



あんたの子がうちの子を怪我させたのは、あんたが見ていなかったからでしょ!

それを棚に上げて、私がちゃんとしていなかったから、ですって?!


怒りで我を忘れそうになった私は、思わず、そのママ友を殺してやろうかと思った。


が、ギリギリのところで思いとどまった。

しかし、許すつもりはない。


私が悲しみに沈む毎日を送っていたところ、その嫌いなママ友が卵をいくつか産んだとの噂が入ってきた。

他のママ友たちは、私の嫌いなそのママ友に、出産おめでとう! と声をかけていた。

私はおもしろくない。

私の子供は殺されてしまったというのに、そいつにはまた、新しい命がいくつも授かったのだ。


私はお祝いする気になんてなれなかった。

むしろ、そのママ友の子が不幸になればいいのに、なんて呪っていた。


毎日毎日、嫌なことばかり考えて、私は気がおかしくなりそうだった。

いや、もうおかしくなっていたのかもしれない。


復讐は悪いこと。

そう分かっていても、復讐しないと自分の気持ちが収まらない。



私は、闇に堕ちた。


あのママ友への復讐を決意したのだった。


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