第6話 葦原の姫

「根の国の者か?」

 あおいは切りつけるように誰何する。

「如何にも」

 あおいを取り囲んだ四人の山伏の内リーダー格らしい背が頭一つ分低い男が前に出てきて編み笠を取る。

 禿頭の50絡み、如何にも海千山千の雰囲気を感じる男であった。

「私はおほほし。葦原の姫には葬邑の儀はここまでとして頂きたい」

 おほほしは問答無用で御簾神には部下に襲い掛からせたが、あおいには礼儀正しく対応する。

「弔わなければ人の死体が腐るように土地は腐りだし荒廃するぞ」

「ええ分かっていますとも。ですので四魂を新たなるヌシにでは無く、我等に託して頂きたい」

「戯れ言では済まないぞ」

 あおいは殺さんばかりにおほほしを睨み付ける。

「いいでは無いですかどうせ人はもう住まないのなら、お返しするのが地津の神でも根の国の神でも葦原の民には関係無いでしょう」

「この山に住む動物たちが困るわ。蟲さえ住まない命無き土地に何の意味がある」

「根の国にこそ真の静寂、真の心の救いがあるのです。

 命は騒がしいのです」

 おほほしは溜息交じりに言う。

「痴れ言を言うなっ。お前達の絶望に勝手に巻き込むなっ」

 あおいは苛烈、烈火、嚇怒する。下手に触れれば燃え尽きそうである。

「葦原の姫は命を愛でてるようで、やはり交渉は決裂。

 ならば力尽くとなりますが、お覚悟は大丈夫ですか」

「私を愚弄するか」

 試すように問うおおほしにあおいはこれ以上の問答は無用とばかりに杖を構える。

 もとより土地を返すことに反対する葦原の一族を押し切って、供も連れず使命感と信念で少女の身一人でこんな山奥に来たんだ。覚悟なんてとっくに出来ている。

「これは失礼しました。

 ならば、これ以降は話し合いは必要なし、互いに我を押し通すのみ。

 その命我等が神に捧げて貰います」

 おほほしが一歩下がれば残りの山伏達は一歩前に出て一斉にあおいに錫杖を突き込む。だがその場所には影が残るのみ。

 見上げれば鳥の如く天に舞い上がるあおいがいた。

「鳥か!」

「怯むな。

 着地を見極めて絡め取れ」

 山伏達はあおいの落下を見切り錫杖を突き込むが、あおいは空を舞う鳥の如く足場の無い空で身を捻りひらりと錫杖を躱して山伏の首に跳び蹴りをめり込ませる。

 ドサッと地に伏す山伏、まだ痙攣をしている山伏を踏み付けあおいは吼える。

「ここは地津神にお返しする土地ぞ。みだりに騒げば障るぞ」

「脅しなど」

 おほほしは憎々し気にあおいを睨む。

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