会議(1)

モニがテーブルを片づけ終わるころに叔父が帰宅し、二人で夕食の準備をする。昨日のシチューが少し残っていたので、パンとソーセージを焼いておしまいにしようかと思ったが、野菜が足りないような気もするので戸棚からピクルスの瓶を出す。

「送り主、見つかるのかな。」

瓶のふたを開けようとしながらモニが言った。

「結構絞り込めたじゃないか。モニが言ったように、最悪猫を追いかければ見つかるし。」

叔父がフライパンのソーセージをひっくり返し、瓶をよこせと手振りでモニに伝える。

「ただ、気になることがあるんだよねえ。モニは今回の件、全体的にどう思う?」

ふたを開けた叔父が瓶を傾けて皿にミニトマトを出そうとするのをモニはあわてて止めた。今から床を掃除する気力はない。

「どうって……。送り主、見つかったらいいなと思いますよ。お母さんが体調を崩してからロビンも大変そうだったし、手紙が気分転換になるんなら良いことだと思いますよ。だから文通を再開させてロビンを安心させてやりたいとは思いますね。」

トングでトマトを一つずつ取り、自分と叔父の皿に3つずつ盛った。

「ただ、送り主が見つかったとして、なんというか……ロビンが期待しているような人じゃなかったらどうしようかなあ、とは思いますね。ロビン、手紙の相手に恋してますよ。もし男の子だったらがっかりするんじゃないかなって。今までみたいに楽しく文通できていたらそれが一番いいと思うんですけどね。」

「意外だね、モニのことだから『若いときの失恋はむしろ良い予防接種になるので、積極的に経験すべきだ』とか言うのかと思ったよ。」

「僕はその考え方は正しいと思いますよ、ただ、今は大変な時期だから守ってあげたいんです。赤ちゃんが生まれたら忙しくなるし、文通だってそのうちフェードアウトしますよ。美しい思い出として残してあげたいじゃないですか。」

「その優しさのひとかけらでも僕にくれたらいいのに。」

叔父がソーセージとパンをトマトの皿にのせた。モニは温めなおしたシチューをお椀によそい、食卓に着く。日ごろの糧に感謝し、二人で夕食を頂く。

「文通の相手、モニはどんな人だと思う?」

「なんとも。ロビンと同じ年ごろの女の子が背伸びをして大人びた文章を書いている、って印象ですけど。」

「途中から愚痴っぽくなったじゃない。その辺はどう思った?」

「あのくらいの年の子ってみんなそうじゃないですか。僕もレイと喧嘩して母さんに怒られたときは、自分は親に愛されないこの世で最も可哀そうな子供だと思っていましたよ。」

「ああ、僕も姉さんと喧嘩したときはそうだったなあ。大体あの人と喧嘩をして勝てる人なんていないんだよ。結婚する前もした後も、いつだって姉さんは最高権力者だった……。」

叔父はぶつぶつと実姉に聞かれたら殺されそうなことを呟く。

「一生独身だろうと思っていたけど、そういう人に限ってすぐ結婚していくんだよなあ。本当、義兄さんは大変だと思うよ。会うたびに痩せていく感じがするし。それはそうとして、愚痴っぽくなった辺りから筆跡が変わったの、気付いた?」

「え?」

モニはびっくりして食事の手を止める。

「ほかにもいろいろと気になることがあってさ、食べ終わったらもう一度手紙を調べてみよう。汚してしまったらロビンに嫌われてしまうからね。」

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