第4話 その告白、本当に必要ですか?

「実は兄上の廃嫡が決まったんだ」


 エーリックは意を決してウェルシェに事情を告げた。


「まあ!?」


 ウェルシェは口に手を当てて目を大きく見開く。


「どうしてそのような仔細になったのです?」

「ウェルシェも兄上の浮気の事は知っているだろう?」

「ええ、確かお相手はアイリス・カオロ男爵令嬢だとか……」


 アイリスはエーリックやイーリヤと同じ学年であり、一つ下のウェルシェは本来なら関わる機会はあまりないのだが、彼女は何かと問題を起こす学園の問題児で有名である。


「ご自分を『ヒロイン』と称し、イーリヤ様を『悪役令嬢』だとかなじる、問題のある言動の多いご令嬢ですわね」

「ああ、他にも高位貴族の子息に近づいて媚を売っては、彼らの婚約者達をいわれなき理由で非難するいさかいの絶えない人物さ」


 彼女の槍玉の筆頭が第一王子オーウェンの婚約者イーリヤ・ニルゲ公爵令嬢だった。


「彼女は日頃からニルゲ嬢から虐めを受けていたと口撃を加えていてね……」


 教科書を破かれただの、除け者にされただの、身分を笠に着て馬鹿にされただの、下らない言い掛かりを将来の王太子妃につけていたのだ。


「イーリヤ様が、そのような愚かな真似をするはずありませんのに」

「そうだね。それにもしニルゲ嬢が本当にカオロ嬢を排除しようとするなら、もっと上手い手段を講じるだろうしね」

「ええ、彼女の話をまともに取り合われる貴族はいないでしょう」

「ところが、取り上げた者がいたんだ」

「まさかオーウェン殿下が?」


 エーリックは苦々しく頷いた。


「それどころか兄上の側近達まで一緒になってね」


 一人の令嬢に将来国を背負って立つ有力な貴族子弟が熱を上げるなど嘆かわしい。そう思うと同時に、アイリスに対してエーリックは不気味なものを感じていた。


「そして、カオロ嬢が階段から突き落とされる事件が起きて、その犯人をニルゲ嬢だと兄上達が糾弾したんだ」

「何と愚かしい真似を」

「ああ、愚かな兄上達だ。証拠など何も無いし、実際ニルゲ嬢がそのような振る舞いをするわけもない」


 更に、オーウェンは大勢の貴族子女の前でイーリヤに婚約破棄を宣言し、多数で囲んで断罪だ国外追放だと騒ぎ立てたのである。


「それでイーリヤ様はご無事でしたの?」

「そこは大丈夫」


 イーリヤは剣も魔術も学園で敵無しの武闘派令嬢だった。

 襲いくるオーウェン達を軽く一蹴してしまったのである。


「それはそれで頭を抱えたくなる状況ですわね」

「まったくだよ」


 この事件は当然ながら大問題となり、オーウェンと側近達、そしてアイリスの身柄は拘束された。


「それでオーウェン殿下が廃嫡に……」

「その代わりに僕が立太子するってわけさ」

「それは……おめでとうございます……と申し上げて宜しいのでしょうか?」

「宜しくはないねぇ」


 さて、ここからが本題だと、エーリックは居住まいを正した。


「それからとても言いにくい事なんだけど、僕が王太子になるに当たり君との婚約が白紙になるかもしれないんだ」

「そんな!」


 最愛の婚約者の残酷な宣告に、ウェルシェの顔がさあっと血の気を失ったのだった。

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