12月12日(火) 士郎


 さいしょに出てきた生中をひと息に飲んで、お通しのほか料理はひと皿もまだ来てないってのにおかわりをふたつ頼んだ。すぐにけいも杯を飲み干す。

 ほとんど待たずにとどいたジョッキを士郎しろうはまた半分ほど飲んで、

「おれなんか恋人にしようって女はいねえんだよ、やっぱ」とビール混じりの息といっしょに吐きだした。


 となりで十五人ばかりがひとかたまりになって飲んで騒いでいるのはたぶん忘年会だ。その喧噪を吹きとばすような勢いで圭がテーブルをばんっ、と叩いて、

「おまえな」と顔を突き出した。「弱気になってんじゃねえ。自信もてよ、士郎はだんぜんイチ押し物件だよ、おれが言うんだからまちがいねえ。それがわかんねえ女なんかこっちからお断りだってんだ」

 どん、と音立て二杯目のジョッキをテーブルに置くが、酒に酔ったわけではない。酔わせているのは世の女どもへのれったい怒りかなにかだ。


「……なぐさめてくれるのは素直にありがたいよ」

 と士郎がわらうのを、圭は真っ正面からにらんだ。

「なぐさめなんかじゃねえ、わかんねえやつだなおまえも。おまえほどいい男をおれは知らねえよ」


 つい熱くなる圭のうしろで、いまにも寿命を迎えそうなエアコンがかたかたふるえている。あたらしい客がドアをひらくと風がフロアを抜けていった。


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