第29話 同行してくれてるローリーが恐ろしいのだが!?

「今日も付き合っていただいてありがとうございます、ローリーさん!」


「良いのよ。せっかくの連休ですもの……昨日に引き続き暴れさせてもらうわ!」


 一晩ぐっすり休んで体力を取り戻したエルは、ローリーと共に、迷宮中層へ続く、銀の扉の前へやってきていた。

“ライム救出作戦”を手伝って貰うためだ。


「あの鎧さん、そういえば昨日私の剣がピカピカ―ってなったのなんだったんですか?」


「あれは【魔法剣(マジックブレード)】というものだ」


「ああ、あれって鎧さんが私みたいにノリで言った技名じゃないんですね?」


「……マジックブレードは武器へ、特に剣へ魔力を付与して破壊力を増強させる魔法の一種だ。恐らく、君と俺の【ソウルリンク】の精度が上がったことで、君の中の隠された力が発現したんだろう」


「へぇー私にそんな凄い力が!」


「代わりに大量の魔力を消費する。君が昨日、訓練の後眠ってしまったのはこれが原因だ」


 最も、度重なるホークとタンクの攻撃に体力を削がれていたことも大きく影響を及ぼしていたのだろう。


「じゃあ、多用は禁物ですね?」


「その通りだ。理解が早くて助かるぞ」


「そりゃ私も成長してますから!」


 自慢げに胸を張り、鼻を鳴らすエルだった。

しかし以前のように、おごり高ぶっている様子は感じられなかった。


「はいはい二人ともお喋りはそこまで。さっさと行くわよ」


 ローリーは身の丈よりも大きいゴーレム鎚を担いで、迷宮中層へ続く扉を開けて、ずんずん一人で進んでゆく。


「ま、待ってくださいよ、ローリーさぁーん!」


 慌ててエルは続くのだった。


 寒々しい迷宮の風を受けながら、俺とエルはローリーの後に続いて、進んでゆく。

やがて迷宮の闇の向こうから、醜悪な幾つものうめき声が聞こえ始めた。

 回廊を抜け、石室に着く。

そこには埋め尽くさんばかりのオークと、少し大柄なホブゴブリンが居た。


「エル、遭遇エンカウントだ」


「はい!」


 俺はエルへ僅かにソウルリンクを施した。

俺とエルは一体となり、腰の鞘から静かにサーベルを抜いて、正眼の構えを取る。


(エルに、俺は動きを合わせるんだ)


(私は鎧さんを信じるんだ)


((これぞ、人鋼一体!))


「たあぁぁぁーっ!」


 エルは俺と共にダッと地面を蹴った。

 急接近。

オークは振り返るが、身じろぎすらできていない。


「おりゃー!」


「GO!?」


 護拳を思いきり叩き込み怯ませ、肩へ刀身を添えて押し切る。

再びつま先で地面を踏み、後退。

迷宮の壁を蹴り、今度は上からオークへ迫る。


「GOO!」


 既に一撃貰っていたオークは、たった一太刀で慟哭し、魔石に代わり砕け散った。


「やりましたね、鎧さん!」


「ああ、いい具合だ。このまま行くぞ」


「はい!」


 そんな俺とエルの脇を数匹のオークがよぎっていった

オークの目指す先、そこにはゴーレム鎚【機工鎚ジャンケン】の柄を地面に突き立て、仁王立ちするローリーの姿が。

 確かにローリーは、稚児を好むというオークにとっては大好物な見た目をしているのは否めない。


「うふふ、良いわぁ……」


しかしローリーは、魔族さながらの邪悪な笑みを浮かべた。


「GO!?」


 ローリーのゴーレム槌はオークを横殴ったかと思うと、一撃で粉砕し魔石へ変えた。

 周囲に居たオークが一斉にたじろぐ。

ローリーは笑みを浮かべたまま、ゴーレム槌を高く掲げた。


「まとめて吹っ飛ばしてやるわ!」」


 槌へ真っ赤な魔力を漲らせたローリーは飛び、


超爆槌ウルトラダイナマイト!」


 柄の先端に着く”グッ”っと握られたゴーレムの腕が、叩きつけられた。

十分込められた魔力がその場で爆ぜ、地面を激しく抉り取る。

凶暴なオークたちは一斉に混乱に見舞われるのだった。


機工モード、シザーズッ!」


「GO!」


 ”チョキン”と指を伸ばし、槍の形状となったゴーレム槌がオークを突き刺す。

ローリーは槍を抜くと、素早く半身をひるがえして、背後にいた別のオークをくし刺しにした。


「パワハラ所長のバカ野郎!」


「GO!」


「無茶なオーダーばっかとってきて! 自分のノルマ達成しか頭にない営業め、こんちきしょう!」


「GO!」


「休みもっと寄越せ、給料上げろ、総務部長のくそはげ! 機工モード、ペェーパァァァー!」


「GOOOO!」


 ゴーレム槌の先端が”パッ”と開き、旋風を巻き起こす。

オークが、風にまかれて、吹き飛んだ。

 ローリーは再びゴーレム槌の先端を拳に変形させ、攻撃を続行。


「あはは! うふふ! さぁさぁどうした、どうしたぁ! もっと根性入れてかかってきなさぁーい!」


 ローリーは嬉々とした様子でゴーレム槌を振り回し、彼女を恐れたオークは必死に逃げ惑うばかりであった。


(もはやどちらがモンスターか分からんな)


「ローリーさん、お仕事大変なんですねぇ……」


 エルはオークを切り伏せながら、しみじみと呟く。


「エル、今はローリーに近づかないでおこう」


「はい、鎧さん」


 俺とエルは巻き込まれないようローリーからかなり距離を置いて、戦闘を続行するのだった。

 ローリーの大暴れもあって、我々は次々と襲い来るモンスターを駆逐しつつ、確実に前進してゆく。

 そんな中、俺は必死に【探知(サーチ)】を駆使して、ライムの反応を探る。

そうして前進を続けながら探知を続けていると、突然反応が強まった。



「エル、この辺りにライムの反応がある。探せ!」


「本当ですか!? ライムちゃーん! どこにいるの!? 出てきてー!?」


 エルは耳をピンと立てて、迷宮の闇の中へ声を響かせ続ける。

やがて、先の暗闇の中にキラリと銀色の輝きが沸いた。


「ちゅ、ちゅるん……」


「ライムちゃん!」


 煤けた一匹のシルバースライムがピクリと震え、動きを止めた。

エルはシルバースライムに向けて駆け出す。

その時、足元を激しい揺れが襲った。


「GROAAA!」


 迷宮の地面を割り、巨人が姿を現した。

胸と足の脛に無数の傷がある巨眼の巨人。

間違いなく、エルと俺が大敗を期した、サイクロプスだった。


「出たな、サイクロプス!」


 エルと俺は揃ってサーベルを構えなおす。

サイクロプスの巨眼が僅かに赤く光り始めた。

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