第14話 ローリー・マクシミリアンが何者かわからないのだが!?

「とっとと入りなさぁーいっ!


 俺とエルは”総工場長室”と看板の掲げられた部屋へ押し込められた。

真っ先に目に飛び込んできたのは、そこら中に積みあがった鎧のパーツの山。

壁には武器類も掲げられ、作業台の上には作りかけと思しき、胸当てがそのまま放置されている。


 そしてこの部屋の主であるヤタハ鍛造場で総工場長と呼ばれるローリー・マクシミリアンは、手早い動作で扉へ鍵をかけ、更にかんぬきまでも通すのだった。


「これで誰もここへ入って来られなくなったわ」


 ローリーは八重歯を覗かせ”くくっ”と悪そうな笑みを漏らしつつ、エルへ躙り寄る。


「さぁ、教えてもらうわよ。その鎧をどこで手に入れたかをねぇ」


「ひぃ!」


ローリーの異様な雰囲気にエルの身体がビクンと震え、後ろへ下がっていった。


「ちゅるんー!」


 エルの肩の上で大人しくしていたライムは、形態を狼の頭のように変化させた。

どうやらこの子なりに、飼い主であるエルを、ローリーから守りたいらしい。


「ちゅるるがうがう!」


「ふん。そんな脅しなんて全然怖くないわ」


「がるちゅるるぅ!」


「ふぅん、あくまで私に歯向かうのね。だったら……!」


 ローリーがぶかぶかの手袋を外して投げ捨てた。

瞬間、彼女の小さな拳が火炎魔法で真っ赤に燃える。


「この真っ赤な拳で鋳潰いつぶしてあげましょうか? シルバースライムを素材にした鎧だなんて、面白いわね。一度打ってみようらかしら? くくっ」


「ぶるぶるぷりん!」


 真っ赤な拳と邪悪なローリーの笑みに、怯えたライムは元の大きさに縮まるのだった。


「ちょっと、うちのライムちゃんに何するんですか! いい加減にしないと怒りますよ!」


エルは怒りを露わにするも、ローリーは同じた素ぶりを一切見せない。


「威嚇してきたのはそのシルバースライムが先で、あたしは降りかかってきた火の粉を払いのけただけよ。怒られる筋合いは無いわ」


「そ、それは確かに……」


いつの間にか、エルはローリーによって壁際まで追い詰められていた。


「言いなさい。この鎧はどこで手に入れたの?」


「あ、あの、えっとぉ……」


 ローリーのドスの利いた声と、未だに真っ赤に燃えている拳を見て、エルは冷や汗を浮かべていた。


「まさかあんた、人様に言えなような手段でこの鎧を……」


「ち、違います! これはその、ええっと、くっ付いてきちゃったんです!」


「はぁ?」


「ほ、本当です! この鎧は鎧さんで、危ないところ助けてくれたり、色々教えてくれたりそれで! ああ、もう、鎧さんからもなにか言ってくださいよ!」


「お、俺か!? しかし俺の声は君にしか届かないんだぞ!?」


「いや、そこは鎧さんの力でなんとか」


「いやいやいや、まてまて。俺だってできることと出来ないことがあるんだぞ?」


「でも、そこをなんかと……ひぃっ!?」


 いつの間にか三段式のステップを用意し、その上に乗ったローリーはエルの顔の横へ"ズドンっ!"っと、真っ赤に燃える拳を打ち込む。

ローリーの眉間に浮かぶ深い皺は、彼女の怒り度合いを如実に物語っていた。


「あんたさっきから何独り言言ってるわけ? あたしのことをバカにしているの!?」


「いや、ですから、私は鎧さんに事情を話して貰おうと」


「んったく、これだから頭がお花畑のエルフは……このままじゃ埒が開かないわね……」


 ローリーは呆れたようにため息を着き、真っ赤な拳を引いて、眉間の皺を解く。


「事情は後でゆっくりと聞くわ。とりあえずその鎧を今すぐ脱いで。ソレはアンタなんかには身に余る物よ」


「あー、えっと……」


「代わり位、お望みのものを用意してあげるわ。だからさっさとして!」


「そのぉ……これ脱げないんです」


「はぁ? あんた何言ってんの?」


 穏やかになったローリーの顔が、再び険しく曇る。


「ほ、本当なんです! 脱ぎたくても脱げないんです!」


「いつまでもバカなこと言ってんじゃないわよ!!」


 ローリーはむずんとエルの腕を覆うガントレットを掴んだ。

 ドワーフの筋力を全開にし、ひっぱり始める。


「いた、いたたた! やめ!」


「痛いならさっさと脱ぎなさい!」


「だから、脱げない……痛!」


「ああ、もう何よこれ、なんでこんなに硬く……」


「止めないか! 痛がってるじゃないか!」


 見ていられなくなった俺は、思わず叫ぶ。


「あ、あれ……? 今声が……?」


 ローリーはガントレットから力を抜き、周囲を不思議そうに見渡す。

もしかすると、これは……!


「エルの言う通りなんだ。俺はこの鎧で、俺の”呪い”のせいで、この子から脱げなくなったんだ。本当なんだ! 信じてくれ!」


 力いっぱい、精一杯叫ぶ。

するとローリーは目を見開く、


「もしかしてこの声って……あんたもしかして”あの冒険者”でしょ!? 私のこと覚えてる!? なんでこんなことになってるのよ?」


 急に親しげな言葉遣いとなったローリーに、俺は首を傾げる。

今の俺に首は存在しないのだが、これは比喩的表現である!


「は、はぁ……? 君はその、俺のことを知ってるのか?」


「知ってるも何も、この鎧を作ったのは私よ! そんなことも覚えてないの!?」


「う、うむ。少し事情を説明したいのだが、良いか?」

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