第11話 勝手に都市の門が開いたのだが!?

「はぁ、もう、この子がいないと、私ダメな体になっちゃいました……」


「ちゅるん」


 耳と頬を真っ赤に染めるエルの肩の上で、何故かシルバースライムが嬉しそうに飛び跳ねる。


「スライムちゃん、また私の体を綺麗にしてね?」


「ちゅるん」


「でへでへ、ぴかぴか~」


 頬擦りまでする始末。

シルバースライムも満更ではない様子で、甘んじている。


(まぁ、これで俺への頬摺りの回数が減れば良いだろう。錆びる心配もしなくて良くなるし)


 ちなみに”捕獲魔法(テイム)”をかけた覚えは一切ない。

どうやら単純になついた、ということらしい。


(危険がないなら良いだろう。やり方はあれだが、エルの体も彼女の云う通り綺麗にしてくれる)


 それにいざ戦闘の時も、陽動役として使える。もっとも、そんな使い方をエルが許してくれればの話だが……。


「よし決めた! この子の名前は”ライム”ちゃんにします」


 エルは肩のシルバースライムを撫でながら、力強く宣言した。


「ライムか。して、名づけの意味は?」


「ス、”ライム”だからです!」


「なるほど、分かりやすくていいな……ス、”ライム”だけに」


「君は今日から”ライム”ちゃんでちゅよー、嬉しいでちゅかー?」


「ちゅるん、ちゅるん!」


 喜んでいるのか良くわからないが、シルバースライムを改め【ライム】はエルの肩の上で飛び跳ねていたのだった。


 俺を装着し、肩にシルバースライムの”ライム”を乗せたエルは迷宮の出口に差し掛かる。

 我々はアイテムの補給と、エルの本格的な休息のため、迷宮の上にある【迷宮都市:マグマライザ】へ向かっていた。


「あの鎧さん、色々終わった後で良いんですけど、”ヤタハ鍛造所”の見学に行っても良いですか?」


「ヤタハ鍛造所? ”ヤタハ工房”ではないのか?」


「あれ? そうでしたっけ?」


 ほんの僅かだが、エルと話がかみ合わなかった。


妙な感覚のまま、迷宮から出る。

 暗い迷宮の中とは違い、外は真っ赤なマグマに赤く照らし出されていた。

 冷え切ったエルの身体がすぐに温まる。

かなり”熱い”ということだろう。

最も、鎧になった段階で装着者であるエルの体温変化以外は一切感じなくなった俺にとっては、真っ赤な風景が広がっているだけ。


「あーづーいー、死んじゃうー……」


「ほら頑張れ。城門まであと少しだ」


「うー」


 やがて石造りの迷宮都市:マグマライザの城門が見え始めた。

何故か、衛兵の姿は無い。


「うー……」


「こら、もっとシャキッと歩かないか。不審者に思われ、迷宮都市に入れてもらえないぞ?」


「大丈夫ですよぉ……」


 リビングデットのようにだらだら歩くエル。

そして城門の前に立つと、門に淡い光が迸った。

門が独りでに開いてゆく。


「な、なんだこれは!?」


「ひうっ!? なんですか鎧さん、急に大きな声出して!?」


「なんで門が勝手に開いたんだ!? どうなってるんだ!?」


「んー? 鎧さん、熱さで頭おかしくなっちゃんですか?」


 そして門扉が開いた先を見て、俺は更に驚きを感じた。

 大通りを行き交う人の数は変わらず。

しかし道は、以前の土くれむき出しではなく、黒くボツボツとしてはいるが、平坦で歩きやすそうな硬い何かで綺麗に覆われていた。

 そしてその先に佇む竜のように巨大な建物。

 城のような外観に、金属製の幾つもの煙突が突出し、モクモクと湯気を上げ続けている。


(なんだこの建物は!? 一か月前に来たときはこんな建物は無かったぞ!?)


 試しに周囲へ【鑑定(アナライズ)】を施すが


――鑑定結果:迷宮内都市マグマライザ壁内街―― 、以上。


「んー! すっずしぃ~! 生き返るー! やっぱり空冷魔法機エアコンは至高の魔法ですねー」


 城門の内側へ入った途端、エルの体温も急激に下がり、平温に達する。

良く見てみれば、地面から管のようなものが伸び、そこから冷たい風が、外へ向けて放たれていた


(あれが空冷魔法機エアコンというものか。見たことないぞ、あんなもの……)


「鎧さん? 元気有りません?」


 エルが心配そうに首を傾げる。


「い、いや、大丈夫だ。とりあえず、ギルドで清算を済ませておこう」


「わっかりましたー!」


 どうやら”ギルド”という言葉通じるらしい。

しかしホッと胸をなで下ろしたのも束の間。

それは冒険者ギルドでの清算処理の時のことだった。


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