第29話 頑張る3人娘VSゴリラ ~忍び寄るあの気配~
現時点でのバロス・チョロス・ロリの配信の概要欄。
ゴリラが怪我した。
コメント欄では「待ってた!」「エリリカちゃんやったやん!!」「セフィリアさんワイも投げて!!」と大興奮。
未だにコメント関連の全てを有料設定にしている大変強気なバロス・チョロス・ロリだが、既に300を超えるコメントが流れている。
「ロリは?」「ロリリン!!」「ロリ出てこい!!」と一部熱狂的なコメントがとめどなく流れて来るが、マロリが「はー。うっざ」とその都度消しているので、魔法少女ファンたちだけでもかなりの収益。
もう目的を達成した感のあるコメント欄。
「えへへ! やったぁー!! これであたしも!! ついに勇者だー!!」
あとエリリカ。
別に終わった訳ではなく、繰り返すが現時点で判明しているのはゴリラが怪我した事と、なんだか不機嫌の極みに到達してドラミングしながら血管をはち切れんばかりに浮き上がらせて「うほぉぉぉぉ!!」と怒気を強めいてる事。
怒りを高めたら後は発散するだけなのは人も魔族もゴリラも同じ。
「こんの小娘がぁぁぁ!! 私のドレスぅ!! 今晩! ウサペロスに脱がされるはずだったヤツがぁぁぁ!!」
「え゛。……ペロペロ」
メスゴリラーンの握った拳が巨大化する。
元から彼女は大きい。
2メートル50センチほどの体は見上げてもしゃくれた顎しか見えず、どれほど鼻息荒く怒り狂っているのかペタン座り続行中のエリリカにはうかがい知れない。
ザッコルの方が大きいので、メスゴリラーンのインパクトが失われているのも一因かと思われた。
ガイコツは基本形態で4メートル近く、しかもサイズ調整が可能。
最近はお父さんの近くにいるのでだいたい170cmくらいをキープしている。
マスラオの身長が185cmであり、それを超える事は不敬に当たるのだ。
「わー。あれ!? やだ! これあたし、危ないんじゃ!?」
「危ないじゃないんだわ!! もう危なかった!! 終わりじゃい! 小娘ぇ!!」
メスゴリラーンの拳が振り下ろされた。
轟音と共にクレーターがメリメリと音を立てて広がっていく。
これはお父さんがレーゲラ城の闘技場で主に地団太踏んで作っていたため、よりインパクトが薄れる。
「それお父さんがやってんの見た」「ゴリラは芸が少ねぇ」などと冷めたコメントが流れる。
勇者配信スタート時の視聴者は『お父さんスライム風呂でジタバタ配信』を見てもまだチャンネルから離れなかった懐の深さを持つ者たち。
つまり、マスラオがジャンプしてダイブしてスライムを舞い上がらせているシーンも視聴済みなので、メスゴリラーンの攻撃の大半はお父さんで済ませている。
「ひぃぃぃ……。怖かったぁ!! セフィリアさんっ!!」
「あ゛。無音でエリリカさんを助けてしまいました! マロリさんが睨んでます!! ちょっともう1度置きますね! エリリカさん!!」
「え゛!? あ、でもでも! 画的にはやっぱり詠唱してピカッと光ってるセフィリアさんが来てくれた方が……! じゃあ、はい! さあ! 掛かって来い! ゴリラさん!!」
「バカにしやがってぇぇぇ! 私ゃ、こんなムカつく配信者初めてだわ!!」
お気持ち、察するに余りある。
「うっほほほぉぉぉぉ!!」
それでもちゃんと拳を巨大化させて振り下ろしてくれるエンターテイナーなゴリラ。
セフィリアも「あ! 来ました!!」と応じる。
「いと毛深き哀しき人獣よ。帰るべき森の場所を今、示せ!! あっちです!」
「私は魔王じゃ!! 帰る場所は魔国の首都か城のベッド!! だよなぁ! ウサペロスぅ!? ウサペロスぅぅ!?」
さっきまでペロペロしていたはずのウサペロスの反応がない。
あのウサギは仕事が終わるとすぐに帰宅したいタイプ。
そのため、どんな仕事でも人の5倍は真面目にこなす。
このやり方で彼は定時退社をキメても部下たちから嫌な顔ひとつされない。
そんな男が、無断退社したのか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
端末捌きも板について久しいマロリが答える。
「さーせん。ちょっとウサきちさん、さっきからエリリカに被ってたんで。蹴っ飛ばしたっすわ」
「ペロペロ……。あ。大丈夫です。ギリギリ生きてます」
ひっそりと変身して、ひっそりと『ピュアリン・マロリン・バーストキック』を繰り出し、ひっそりと変身解除していた魔法少女マロリ。
一瞬だけカメラにフリルのついたニーソックスが映り込んだらしく「ロリリン!」「ロリリン!!」「これオレら、ロリリンに抱かれてね?」とロリリンファンたちもご満悦。
いつの間にか視聴者数が20000に迫る勢いを見せており、このまま順調にいけばメモリア・リガリア日間ホットランキング入りも見えて来る。
そんな時分にゴリラが激昂。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!! うほぉぉぉぉぉ!! 全然効いてねぇんですけどぉ!! 人間どもの攻撃なんかぁ? ちょっとドレス裂けておっぱいポロリしただけだわぁぁ!!」
ゴリラの露わになった毛深い胸部のせいだろうか。
視聴者が1000人減った。
「やべっ! エリリカ! セフィリア!! もっと派手なのやれっすよ!! 勢い来てんすから! 今!! 乗るんすよ! このビッグウェーブに!!」
ハイテンションなマロリは商機の証。
既にチームで共有している情報にエリリカの闘志も上昇した。
が、彼女は得物がどこかに行っている事に気付く。
「あれ!? 剣がない!!」
「刺さってんだよ! 私の肩にずっとぉ! 抜けよ! 普通は抜くだろ! マナーとして!! どういう教育されてんの、この小娘!! 私、むっちゃ血ぃ出てんだろが!! ピンク色の!!」
「それって血なんですか?」
「血だわ!! 何に見えるんだよ!!」
「うええ!? あの……。セフィリアさん!!」
「出ました! そういうのは勇者の口からハッキリと言って差し上げた方がいいと思います!!」
「…………怒らないでくださいね?」
「いいから言ってみろ!!」
「うちのお父さんが搾ってる牛のおっぱい……。あ。しかもお父さんが、あちゃー。こりゃ売り物にならないよ! って言ってる方の」
「すり潰す!!」
エリリカがビクッと身体を震わせて「怒らないでってお願いしたのに!!」と涙目になる。
おわかりいただけただろうか。
娘が。怖い思いをして。涙目になった。
闘技場の扉が乱暴に叩かれる。
「うるせぇぇぇ!!」
「すみませーん!! ごめんくださーい!! あの! 勇者の父なんですけど!!」
コメント欄が「お父さん」「お父さん来た」「勝ったわ」「お義父さん!!」と最高潮を迎えたのは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます