第24話 チャー・ハァァンの妖魔 メスゴリラーン

 チャー・ハァァンを統べる魔王がチャー城にて連絡を受けていた。

 相手は威圧感のある低い声と尊大な態度でいかにもな雰囲気を無料で垂れ流す。


『ふっはっは。我である。昼休みに失礼するが、業務時間中よりは良いかと思ったのでな。ふっはっは。城を統べる魔王が業務時間に私用の通信をしていては部下に示しがつくまい。ふっはっは。返事をせよ。貴様。……何か食っているな?』


 この残虐性と社会性を併せ持つ荘厳な声の主はさぞかし名のある魔族だろう。

 誰なのかは分からない。


『ふっはっは。……通信状態が悪いのか。ヤッコルぅー。ちょっと通信魔法の電波が悪い。貴様も魔力を注いでくれ。モッコルは来なくて良い。お父様から離れたら貴様、またヌルヌル除去が最初からになるであろう。おい、よせ。呼んだのではない。こっちに来るな。あ゛』


 誰なのかは分からないが、「申し訳ございません!! 違うんです! 我が悪いのではないのですが、いえ我が悪うございました!! 部下の不始末は魔王の不始末!! モッコル!! 貴様ぁ!! 言う事を聞かんか!! こういう事があるから年上の部下は嫌なのだ!! 本来ならば殺しているところなのに、蘇生させた後に気まずいから軽々に殺せもしない!! あああ! お父様、歩き回らないで頂けますか!? 絨毯が!! お父様ぁ!!」と、大変な惨劇がチャー城の執務室に響いていた。


「うるさいね。用件だけ聞いてガチャ切りしようと思ったら、用件も言い出さないじゃないか。もう切るよ」

『ふざけるなよ、貴様。通信魔法の魔力はこちら持ちなのに勝手に切るな。我の魔力、出し損ではないか』


 チャー・ハァァンを担当する魔王は2年前に着任した新人である。

 ザッコルよりも魔族としての実力は格下なのだが、魔王という階級は同じなので対等に接しなければならない。



 失礼。

 謎の通信者だったので、誰だかは分からない。



『そちらに勇者が向かった。3人娘のチームだ。とても強い。とても怖い。相手をしたら貴様が死ぬし、我もバラバラになる。いいか。城を訪ねてきたら丁重にもてなしてからお帰り頂け。お土産をお渡しするのを忘れるな。勇者様は可愛らしいものがお好き。鑑定士様はなんか鈍器。魔法少女、いや、魔法使い様は金貨で良い。お渡ししたら竜車を手配して速やかに全職員総出でお見送りしろ』


 ガイコツの骨は魔力さえあれば再生可能だが、心は1度バラバラになったらもう2度と復元されない。


「はぁ? ザッコル。お前さん、頭おかしくなったのかい? この私が人間ごときに後れを取るとでも? というか、お前さん人間をなぶり殺しにするのが大好きだっだろう?」

『ヤメろ!! 人間ほど尊ぶべき者はこの世におらんのだ!!』


 バラバラになった心は2度と元には戻らない。


「あーっはは! お前さんが恐れをなした人間ねぇ! 興味が湧いて来た!! 殺してやるよ!! 女だったかい? 首から上はそっちに送ってやろうか?」



『本当にヤメてください。我の後ろには……いらっしゃるのだ。良いか。タダでは済まんのは貴様だぞ。メスゴリラーン!!』

「私を呼ぶ時はラーンと呼べって言ってんだろ!! タオヤメ様から賜った名前は呼ぶな!! あの人部下にメスって付けて統一してるけど、私は元の名前がゴリラーンだからもう!! なんか酷い事になってるだろう!! むしゃくしゃした! 絶対殺す!! じゃあな!!」


 ガイコツの悲鳴が聞こえた気もしたが、通信魔法が途絶えたので以降の様子は分からない。



 チャー・ハァァンを統べる魔王。

 メスゴリラーンである。


 ゴリラの魔族である。

 ♀である。


 巨体を活かした力こそパワーな戦闘スタイルは驚異的な攻撃力を誇り、年齢は27歳とまだ若いのでオシャレにも余念がない。

 今はピンク色のドレスを身に纏っている。


「ウサペロス! 街に勇者はいるかい?」

「いえ。まったく気配はありませんが。ペロペロ」


 メスゴリラーンは副官に中位魔族を1人だけ傍に置いている。

 それ以外は下級魔族の職員と人間を28時間勤務させてチャー・ハァァンの役所としての機能は丸投げする治世を取っており、住民満足度指数はプロヴィラルの中でも下から数えて結構すぐに名前が見つかるほど低い。


「ところで、あんた。今晩は暇かい?」

「……ちょっと叔父の具合が悪くて」


「暇だね?」

「暇でした。ペロペロ」


 ウサペロスはウサギの魔族とアリクイの魔族のハーフ。

 ♂である。


 メスゴリラーンはオフィスラブをしていた。


「夜の肴に身の程知らずの勇者を血祭りにあげようかね!! うほほほほほ! ああ、ごめん。あーっはははは!!」


 ドラミングがチャー城に轟いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 城下町では、エリリカが露店で商人と交渉中であった。


「お嬢ちゃん可愛いねー!! この服どう? 東大陸で今ね、ものっすごく流行ってるの!! ジャージって言うんだけど!!」

「え。あの。あたしはスカートが欲しいんですけど」


「あー! そう? じゃあね、これだ! ダメージデニムスカート!! セクシーだよ!!」

「これ、ボロボロじゃないですか?」


「さてはお嬢ちゃんおのぼりさんかい? 都会じゃこれくらい普通なんだよ! 今のスカートもちょっともっさりしてるよねー!! なに? そのおばさんが穿いてるみたいなの! 若いんだから冒険しなくちゃ!!」


 エリリカはスライム配信でお小遣いを貯めて買ったミニスカートが消失。

 ブラウスは生き残ったが、今はレーゲラ城で年末に行われる歳末バザーのために集められたものの中から間に合わせでベージュのロングスカートを借りて穿いていた。


 社会人女子がすればデキる女感がマシマシになるコーディネートだが、エリリカは15歳。

 ちょっと年齢と服装の乖離があるのは確かだった。


「これね! 今なら……そうだな。本当は180000エェェンなんだけど」

「高い!? そんなにするんですか!? これ、お尻とか下着見えちゃいますよね!? どこかに引っ掛けたらビリビリってなりそう……」


「それがオシャレなのよ! でも待って! 慌てなさんな! お嬢ちゃんの可愛いお顔にサービス! 今ならね! 同じものを2つ! これを180000エェェンでいいよ!!」



「えっ!? すごい!! そんなサービスしてもらってもいいんですかぁ!?」


 エリリカの職業は村娘である。

 服は行商人が村に来た際、お父さんと一緒に買うのだ。



 エリリカちゃん、はじめてのおかいもの。

 お財布にはお父さんがくれた3人分の活動資金200000エェェン。


 大ピンチを迎えていた。

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