第11話 ここに(ガイコツの)全財産があります。娘の仲間になってください。

 マロリは悩んでいた。


 絶対に人前で魔法少女になりたくなかったのに、やむを得ず変身した瞬間にギャラリーが大量に発生した。

 あまつさえ、どうやら配信されたらしい。


 知らないおっさんが端末構えて未だにこちらを向いているのが目を逸らし難い現実。


 より深刻な問題が彼女を待ち受けている。

 ちょっと気の毒なので、魔装と本来の呼び方を用いるが、魔装は戦闘が終われば解除するのが基本的な運用方法。


 魔力を絶えず消費し続けると肉体的な負荷も大きい。

 貧血に似た症状が出るらしく、マロリの場合は変身状態を10分継続すると朝食を抜いた日の昼過ぎ頃にやって来る空腹と倦怠感に襲われる。


 それは辛い。


 モッコルを爆発させてからそろそろ7分。

 いい加減に解除したいのだが、17歳の乙女にとってはそれもまた茨の道。


 変身解除すると言う事は、身に纏っている魔装がなくなると言う事。

 そして元の服に戻るのだが、その過程できっちりと一瞬服がなくなり、あられもない姿になる必要がある。


「魔法少女とか産み出した始祖、会ってみてぇっすわ。ぶち殺すんすけどね」


 これだから魔法は使いたくなかった。

 そもそも歯科検診を実施している歯医者について調べに来たのであって、配信者として戦いを挑みに来たわけではない。


 どうして必要のない辱めを受けなければならないのか。

 しかもマロリは17歳にしては実に慎ましい体をしている。


 余計に見られたくない。

 口は悪いが心は乙女。


 そんな同性の危機を察知したのか、エリリカが呟いた。


「あ。分かった。あの子、おトイレ行きたいんじゃないかな? 動かなくなったもん。さっきの派手な必殺技もそうだよ。おトイレ我慢してたから、急いでたんだよ。お父さん、撮影ストップ!」

「かしこまり!!」


 魔法少女になると五感が研ぎ澄まされるので、20メートル程度離れた場所ならば呟きも拾える。

 マロリも呟いた。


 こっちはヤツらに拾えない。


「いや。違うんすよ。や。もうトイレでいいっす。変身解除するんで。……どっか行ってくんねぇっすかね? 仮にトイレを我慢してたら、あんたたちがそこにいるせいで大惨事なんすけど!!」


 闘技場の性質上、出入口は1か所だけ。

 獲物が逃げては興が醒める。


 そんな葛藤をしていると10分が経過して、マロリがフラフラし始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ずっと沈黙していたセフィリアも口を開いた。

 彼女は鑑定士。


 この世の事はだいたい鑑定できる。


「これは好機です」

「好機? えっ。あの、セフィリアさん? あたし、女の子がおトイレ我慢してるところを撮ってまで視聴者を増やそうとか、そーゆうのはちょっとですけど」


「いいえ。違います。彼女が我慢しているのは変身の解除です」

「わー! それ、見たいです!! どうなるんですかね!!」


 一瞬、全裸になる。


「エリリカさんはまず、配信者として名を上げなればなりません」

「そうなんですか?」


「職業は一定の適正値に到達すると変化します。今のエリリカさんの適正は村娘が99%を占めています」

「あぅ……。そうでした……。むらむら……」


「希少価値の高い魔法少女をゲットしましょう。わたくしは所詮、スタイルが良いくらいしか取り柄はありません。攻撃方法は杖で殴りますし。エリリカさんのスカートヒラヒラも2回目の配信でもう飽きられます。武器が足りません」

「うぅ……。あたし、お小遣い貯めてミニスカート買ったんですよ? 2回目で飽きられちゃうんですか!?」



「お父さんは飽きないよ!! エリリカちゃんのミニスカから伸びる太ももは国の宝だよ!!」

「うるさいなぁ!! もう来年のお父さんの誕生日、無視するから!!」


 マスラオが崩れ落ちて、静かに息を引き取った。



 その様子を見て、聞いていたマロリ。

 フラフラする体で頑張って変身を維持しながら、所見を述べた。


「エリリカってのは世間知らずのちびっ子っすね。セフィリアって子は……。エセ僧侶で中身は悪魔っすか? ウチの状況を鑑定して全部知ってんのに、なんでそんな意見出て来るんすか? 仮に交渉するつもりなら、まずはウチの心象良くすんのがベターなんじゃないんすか!?」


 憤慨していると、エリリカがトコトコと駆けて来るのが見えた。

 マロリが顔をしかめる。


「なんで来るんすか!!」

「こんにちはー!! あの! 良ければなんですけど! 一緒に配信チーム作りませんか!!」


「良くねぇんすよ! あ゛」


 マロリの限界が訪れて、変身が解除された。

 ほんの一瞬だが、大変あられもない姿になって、まばたきを挟むと元のショートパンツにノースリーブなマロリに戻っていた。


「…………ぁ」

「えと! 可愛かったよ!! そう、お肌が綺麗!!」



「世間知らず娘はぜってぇウチの事を年下と思って気ぃ遣って来てんのが腹立つんすよ! 体型で年齢判定すんな! ウチは17!! あんたは!?」

「あ! あたしはエリリカ・バロスって言います!!」



 マロリが「17は名前じゃねぇんすよ……」と嘆いてから、地面にへたり込んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「やあ。こんにちは」


 気付けばいつも娘の傍にいる、蘇生済みのお父さん。


「何なんすか、マジで……」

「君! 娘と一緒にチーム組んでくれないか!!」


「おっさんに関しちゃ勝手に色々撮られた恨みスタートなんすけど。なんでにこやかに語りかけて来られるんすか。頭ん中からっぽ野郎!」

「タダでとは言わないよ!!」


「このおっさん……!! ウチの魔法少女映像をネタに……!? マジでヤベェおっさんじゃねぇっすか!! 終わったっす……」

「君、お金がないんだろう? なんだか薄着だったし」


「マジすか。おっさん、度が過ぎてんすけど。え。体の要求っすか」

「全財産をあげよう!!」


「えー! マジっすか! ウチのちんちくりんな身体にそんなくれるんすか!! ちょっとおっさんの持ち点アップしちまったんすけど!!」

「ガイコツくんの財産を!! ここの城主だからきっとたくさん持ってる!! どうだろう! 娘と組んでくれないか!!」


 マロリは「はぁ? 恥ずかしい目に遭うの確定とか。バカっすか?」と思った。



「ちょっとだけっすよ! マジで!! 貰った金以上は働かねぇっすからね!!」


 気付けば初めて見せる満開の笑顔とともに、快諾していた。



 マロリ・マロリン。

 魔法少女を生業にする彼女の実家はとても貧乏である。


 だってみんなすぐに魔法少女業を引退するから。

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