第2話 勇者(?) エリリカ・バロス
プロヴィラルの西大陸にあるレーゲラ・ハァァン。
魔王の城に1人の少女がやって来た。
肩まで伸びた金髪、簡素なプレートタイプの胸当てを身に付け、白いスカートの腰に剣を携える。
平均的な身長で頼りなく痩せている訳ではないが、ガッチリとした体型でもない。
今のところ普通の15歳。
「よし! メモリア・リガリアの感度オッケー! 服装も……。うん。もう少しスカート短くする? 初めてだし、インパクトって大事だし。でもなぁ。お父さんがうるさいからなぁ。膝上10センチ! これで妥協しよう!!」
エリリカ・バロス。
前述の通り15歳。
本日、勇者デビューを予定している。
◆◇◆◇◆◇◆◇
城に入るとまず受付がある。
屈強な狼の獣人がじろりと睨みつけてからエリリカに声をかけた。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか」
睨みつけたように見えたのは鋭い目つきゆえ。
獣人は勘違いされがちだが、彼は満面の笑みだった。
「あの、あたし初めてなんですけど。この、リアリアで。えっと。配信希望で!」
「ああ。はいはい。配信。今日は多いな。普段ですとご希望を伺うのですが、あいにく今すぐに対応できる者は魔王のザッコル様だけとなってございます。いかがなさいますか?」
「えっ。魔王って、1番偉い人ですよね?」
「はい。そして1番強い魔族です」
「うぇぇ……。どうしよ……。3番目くらいに強い人っていませんか?」
「モッコル様は先ほどいらっしゃった魔法使いの娘と殺しあっておられます」
「うぅ……。じゃあ2番目に強い」
「ヤッコル様はその前においでになられた僧侶の娘と殺し合ってございます。不安でしたらお待ちになられますか? 2名のどちらかが始末された後で対応させる事も可能ですが」
エリリカは少しだけ考えたが、意を決して首を横に振った。
「い、いえ! デビュー戦なので! 今、覚悟がキマった状態でやりたいです! 勢いついてるので! わーっていきたいです!! 1時間とか待ってたら心折れそう!!」
「かしこまりました。では、7番の闘技場へどうぞ。……こちら受付。ザッコル様。配信者の方がお見えです。対応願います」
狼の獣人の言葉にエリリカが訂正を求めた。
「あ、ええと! あたし! 勇者です!!」
「左様でしたか。ザッコル様。勇者でした。生殺与奪を委ねるそうですので、煮るなりコトコト煮詰めるなりお好きにどうぞ。は? いえ、女子です。はい。そうですね……。印象だとなぶり殺せそうですが。はい。ご案内します」
地方によって異なるが、配信者は「無理に殺さなくとも良い」とされ、勇者は「見つけた瞬間絶対に殺す」とされるのが一般的。
勇者と名乗る事で戦闘は熾烈になるため、必然的に映像もド派手なものになり多くの視聴者を獲得しやすい。
命が対価。ハイリスクハイリターンの極み。
腕に覚えのある者しか選ばないが、エリリカ・バロスは果たして。
何か隠された異能の力があるのだろうか。
案内板に従って7番闘技場の前にやって来たエリリカは息を大きく吐いてから扉を開けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ど、どうもー! こんにちはー。……挨拶とか決めとけばよかった! あの、エリリカです! 今日からリアリアで配信していきます! よろしくお願いします! 見えてますかー? わー! ……緊張して言葉が出てこない!!」
メモリア・リガリアでは視聴者が料金を支払う事でコメントを送る事ができる。
早速コメントが1つ表示されたのでエリリカが興奮気味に応えた。
「わー! ありがとうございます! ええと、クソブタさん! エリリカ、後ろ後ろ?」
振り返ると巨大なガイコツが立っていた。
骨のみで構成されている身体なのに威圧感を垂れ流しており、両手からは鋭利な爪が「これでお前を八つ裂きにしてやる」と主張する。
「ふっはっは」
「あ、えーと! 魔王が出ました! 魔王です! 結構大きいです!」
「ふっはっは」
「でも頑張ります! 応援お願いします!!」
「ふっはっは」
「いくぞぉ!!」
魔王ザッコル・ザッコリス。
強靭な骨格を持つ髑髏の怪物。
「小娘。まずは挨拶をしろ。我が高笑いを3度もしたのに、なにゆえ配信を止めない? ちょっと目に余るぞ!! もう殺して良いな!?」
ザッコルはマナーにうるさかった。
加えて残虐性も高く、人間を殺したくてうずうずしながら人間の生活環境を整えている。
「えっ。あっ。……ごめんなさい」
「ふっはっは。素直で良い子だった。ならば殺してやろう!!」
勇者コースを選択しているので相手が良い子でも殺し合いをしなければならない。
これが魔王の辛いところである。
ザッコルは基本的に誰彼構わず殺したいので特に辛くはない。
「今度こそいくぞぉ!! あたしの剣捌きでバラバラにしてやる!!」
「ふっはっは。さぞかし残虐な配信となるだろう!!」
「てやぁぁぁ!! エリリカアタック!!」
ザッコルが人差し指の爪を伸ばしてエリリカの剣を弾くと、ペシッと音がした。
そしてエリリカが倒れた。
「ふぎゅう……。なんて力!! くぅぅ……!! ダメだった……」
「ふっはっは。なんやこの子。勇者と呼ぶには弱すぎる。さらに諦めるスピードが尋常ではない。我もこれには躊躇うというもの。小娘、なにゆえ勇者などを志した? 手応えがなさ過ぎて肩透かしも良いところである。少しだけ遺言を聞いてやろう」
「あたしが小さい頃にですね、エリリカは勇者に向いてるよ! 可愛いし! ってお父さんが言ったからなんですけど……」
「お父さんが?」
「それで昨日、あたしもなんかやれる気がしてきて!」
「昨日? 急に?」
「あ、はい。それで、剣買おうと思ったけどお金がないから。向かいのホゲーおじさんに借りて」
「おじさんが? お父さんは?」
「え? 知らないです」
「お父さん……」
「あ! 頑張ってね! とは言ってました!」
「お父さんが?」
「ホゲーおじさんが」
「お父さんは?」
「今日から勇者を始めるって言ってないから」
「お父さんに?」
「だってウザいこと絶対に言うし。あたしだって家計の助けにくらいなれるのに! 全然言う事聞いてくれないんです! もー! ひどくないですか!?」
「お父さんと話し合え」
「……くぅ。覚悟しました。殺して!!」
「殺しにくいったらないな! ただの夢見がちな小娘ではないか。我、忘年会とかで絶対に他の魔王に言われる。お前最低だなって。それは困る。殺戮が趣味でも相手は選ぶのだ!!」
エリリカの瞳が怪しく光った。
続けて彼女は地面を強く蹴る。
「隙ありぃぃ!!」
「隙などないわ! この娘、ちょっとアレだ。親の顔が見てみたい。殺せっていうのは嘘か? 可愛い顔してるのに割とゲスいな。よし、もう殺そう!」
「うぎゅ」と鳴いてエリリカが地面に転がった。
同時に闘技場の扉が叩かれる。
「来客か。誰ぞ。名乗れ」
「すみませーん!! 勇者の父です! 娘の忘れ物を持って来ましたー!! 可愛いエリリカちゃん、いますよねー!?」
今、物語の幕が残念な感じで上がる。
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次話からは毎日18時に更新!
よろしくお願いいたします!!
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