十文字先生と保健室

阿久津 幻斎

第1話 (序章)保健室の先生?

 某県某市某所、東奥花中学校には一風変わった保健室の先生がいる。裾をるほど長い丈の白ジーパンに、白い長袖Tシャツ、その上に白いカーディガンを羽織った真っ白怪人、十文字楽じゅうもんじがくは、ハーブに対する豊富な知識を持っている。その知識を活かして、中学校で保健室の先生を、いや、正しくは、として働いている。

 昼休みと放課後に開かれる「お茶会」では、保健室に訪れた生徒に十文字がハーブティーを提供するのだが、なぜか決まって訪れるのは問題や悩みを抱えた生徒ばかり。そんな生徒達のお悩みを、淹れたてのハーブティーと共に解決に導いていくのが彼のお仕事。

 ある日の放課後、十文字が保健室の奥にある大きな棚を整理していると、ガラガラ、とドアの開く音がした。

「あ、あの……三年一組の平野です。十文字先生って、今いますか?」

「ああ、いるよ。ちょっと待ってね。ハーブさーん、三年一組の平野さんが呼んでるよー」

 本物の保健室の先生である古田香織ふるたかおりが、保健室を二つに隔てている衝立ついたての奥に声をかける。

「はいはい、お待たせえ、十文字です。ごめんね、今棚の整理してたんだ。では、どうぞ奥に」

 色んなハーブが入った小瓶を片腕いっぱいに抱えた、全身真っ白な長身の男が衝立の奥から、ひょい、と出てきて手招きをしている。

「失礼します……」

 十文字は、持っていた小瓶を適当に棚にしまうと、平野の向かいの席に膝を抱えるようにして座った。

「さて、今日はどんなブレンドにしようか」

 癖の強い字で書かれた手作りのメニュー表をテーブルに並べ、ニヒルな笑みを浮かべてお決まりのセリフを言う。

「君の為のスペシャルブレンドを淹れるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る