トロール対ジーラス


「……反撃はないな」


 攻撃を終えたSEARDの隊員たちは、目の前の廃墟寸前の現場を観察し続ける。どこから相手が反撃してくるか分からないために、彼らは警戒を止めることはしない。


「歩兵部隊、突入!」


 突入指示が出る。それを聞いたSEARDの歩兵部隊は、迅速に建物を制圧するために侵入を開始する。

 アサルトライフルやショットガン、ピストルといった銃火器を装備し、ボディアーマーを身に纏った隊員たちが進んでいく。


「SAERDの隊員だ。応戦しろ!」


「クソ、なんでSAERDがここを嗅ぎつけたんだ!」


「知るか。さっさと戦え!」


 チンピラたちは手に持った銃火器でSAERD隊員と戦闘を開始する。だが両者の装備の優劣は明白であり、SAERD隊員たちは瞬く間にチンピラたちを殲滅していく。


「こちらアップル、クリア」


「了解、そのまま進め」


 SAERD隊員たちは統率された動きで、建物内を掃討しながら突き進む。しかしそんな彼らの快進撃も、不意に建物を襲う揺れによって終わってしまう。


「何だ!?」


「急いで脱出しろ!」


 歩兵部隊の隊長はすぐに判断を下すと、隊員たちを急いで建物から脱出させる。しかしそんなSAERDの隊員たちを襲うように、徐々に揺れは大きくなっていく。

 次の瞬間、金属製の壁が砕かれ、全長3メートル以上の巨人がSAERD隊員たちの前に現れる。


「まさか……トロールか!」


『このトロールで死ねぇ!』


 眼の前に現れた巨人――トロール。ゴブリンやドワーフの上位機ともいえるコンバットメックのハイエンド機である。そしてこのトロールこそがチンピラたちの切り札であった。

 トロールはヘリコプターなどに使用される重機関砲を両手に持ち、ゆらりとSAERD隊員に視線を向けた。

 そんなトロールを見た歩兵部隊の隊長は、驚きのあまり一瞬だが足を止めてしまう。彼の隙を逃すようなトロールではなく、重機関砲を起動させそのままひき肉にしようとする。


「隊長逃げてくだい!」


こいつ重機関砲でひき肉なっちまいな!』


 チンピラの言葉に歩兵部隊の隊員たちが悲痛な叫びを上げるが、しかし彼らにトロールを止める手段は無い。

 トロールの所持している重機関砲が唸り声を上げ、銃弾をばら撒こうとした瞬間。トロールを襲うように建物の外からジーラスがタックルしてき、攻撃を中断させる。


『聞こえるか! このトロールは任せろ』


「済まない。総員離脱しろ」


 ジーラスのパイロットの言葉に軽く礼をした歩兵部隊の隊長は、急いで隊員たちを避難させる。その理由は明白で、これからトロールとジーラスの戦うこの場は、地獄のような様相となるからだ。

 本物の肉食恐竜の如くジーラスは叫びながらも、トロールへ向かって接近戦を仕掛けに突っ込んでいく。だがトロールは重機関砲を下ろし両手を自由にすることで、そのままジーラスの巨体を受け止める。

 ジーラスとトロールが組み合った瞬間、まるで空気が振動したかのような衝撃が周囲を襲う。

 

『ぐううう……!』


『があああ!』


 両者のパイロットも戦闘によって襲いくる負荷に、歯を食いしばりながら乗機を操作し続ける。

 先に動いたのはトロールであった。トロールは脱力してそのまま横に移動することで、ジーラスの突撃を受け流そうとする。


『な、なんのぉ!』


 組み合っていたトロールが梯子を外したのでジーラスはバランスを崩し転倒しかけてしまう。だがすぐにジーラスのパイロットは機転を利かして、スラスターを上手く使い尻尾をトローに叩きつけた。


『な!? がああ!』


 コクピット内へ襲いかかる衝撃に、思わず大声を上げてしまうトロールのパイロット。そのままトロールは壁に叩きつけられ、勢いはそのままに壁を破壊していく。

 トロールの隙をついてジーラスは、そのまま飛びかかり全体重を押し付けようとする。しかしトロールもすぐに反応しスラスターを噴かすことで、ジーラスの攻撃を回避する。

 1度の激突だけでジーラスとトロールの周囲は、既に廃墟寸前の状態となっており、周りは逃げ遅れたチンピラたちの死体の凄惨な死体が見える。


『これでも喰らえ!』


 ジーラスのパイロットの叫びと共に、ジーラスは背中に背負っているロングレンジライフルを、ゆっくりトロールに照準を合わせて撃つ。

 ズンと凄まじ衝撃と銃声が響き渡り、ロングレンジライフルの銃弾が発射される。

 しかしトロールは素早く回避行動を取ることによって、ロングレンジライフルを避けてしまう。


『はっはぁ! SAERDも大したことないなぁ! ヒャハハハアアア!』


 トロールのパイロットは嘲笑するが、その様子から見て戦闘用のドラッグをキメていることは明白である。

 このままでは埒が明かないと判断するジーラスのパイロット。素早くジーラスを操縦し、トロールに向かって突撃をさせる。


『行くぞ、ジーラス!』


「ギャオオオォォォ!」


『何だぁ? やけにでもなったかぁ!』


 ジーラスの動きを見たトロールのパイロットは一瞬怪訝な声を上げるが、ジーラスのパイロットがやけになったと判断したのか笑い声を上げる。

 しかしトロールのパイロットの言葉を聞いてもジーラスのパイロットは、迷うことなくトロールと距離を詰めていく。

 次の瞬間、スラスターを噴かせたジーラスは一気にトロールへと近づき、そのまま鋭いタックルを仕掛けるのだった。


「なあ!?」


 予想外の展開に驚きを隠せなかったトロールのパイロットは、思わず大声を上げてしまう。

 そのままジーラスとトロールは、壁をぶち抜いて建物の外に脱出する。そして勢いを殺さずにジーラスは腕に搭載されたレールキャノンを、トロールに撃ち込むのであった。


「クソ、クソ、クソ! 動けぇ!」


 レールキャノンのダメージがトロールのコンバットシステムをショートさせたのか、トロールは動きを止めてしまう。その隙をついてジーラスは背中に搭載されたロングレンジライフルの照準を、トロールに向け迷いなく放つ。

 耳をつんざくような銃撃音と共に倒れたトロールの胸部には、ロングレンジライフルによる大きな穴が空いている。そしてトロールの周囲はパイロットの血と思われる赤い液体が地面を汚していた。


『状況終了。これより歩兵部隊との合流に入る』


 そう言い残してジーラスは、廃墟となった建物を去っていくのであった。

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