君を守るために


「賞金首なんざ怖くねぇ。ぶっ殺してやる!」


 そう叫んだゴロツキの1人は、小さく手を震わせながらも手の中にあるサブマシンガンの照準を、ゼファーへ合わせようとする。

 だがサブマシンガンを所持しているゴロツキが照準を合わせるより、素早く地面を蹴ったゼファーはゴロツキへ近づく。そのまま鞘から刀身を抜くと、ギラリと輝く抜き身の刀を、勢いよくゴロツキの腕へ振り下ろした。

 ゼファーの鋭い一撃の元、サブマシンガンを持ったゴロツキの腕はポトリと地面に落ちる。更に追撃と言わんばかりにゼファーは、回し蹴りをチンピラの胴へと叩き込むのだった。


「な……? 俺の腕があああぁぁぁ! がっ!」


「さあ次は誰がいい? ピストルを持った奴? それともそっちで鈍器を持った奴らか?」


 ゼファーに視線を向けたれたゴロツキたちは、ザワッと声を上げると逃げるように1歩後ろへと下がる。そんな彼らを見てゼファーの視線は、氷点下のような冷たい視線へと変わる。


「もういい、マリア行こう」


「あ……うん。ありがと」


 ゼファーに声をかけられたマリアは、一瞬呆けた表情になってしまう。だがゼファーが誰に向かって話しかけられたのか理解し、満面の笑みを浮かべて小さく礼を言う。

 そのままこの場を去って行こうとするゼファーとマリアの二人であったが、マリアの笑顔を見たゴロツキたちは、心の奥から嫉妬と怒りの感情が燃え上がっていく。


「殺せ!」


「どのみちあの男は殺さなきゃ賞金を貰えないんだ。殺っちまえ!」


「ついでにあの女も奪うぞ!」


 ゴロツキたちはそう叫ぶと、ゼファーに向かって手に持った獲物を構え襲いかかる。

 最初に動き出したのは、遠距離からでも攻撃できるピストルを持ったゴロツキだ。ゴロツキは照準をゼファーに合わせると、トリガーを引き銃弾を放つ。


「危ない!」


 銃声を聞いたゼファーは即座にマリアを庇うと、そのまま回避運動を取る。斉射された銃弾の内、半数を回避できたが残りの銃弾はゼファーの肉体に命中する。銃弾はゼファーの肉体を貫通しなかったとはいえ、痛みはゼファーの肉体を襲う。


「っううう……!」


「ゼファー、大丈夫!?」


 耳元で痛みを堪えるようなうめき声を聞いたマリアは、心配そうにゼファーへ声をかける。

 額に脂汗を流しながら顔を歪ませたゼファーは、無言でサムズアップをする。そして素早くピストルを抜くと、抜き打ちでピストルのトリガーを引いた。

 連続して響き渡る銃声。それと同時に発射された銃弾は、無防備なゴロツキたちの肉体へ貫通していく。


「がっ!」


「痛ぇ!」


 地面を赤く染めあげ倒れ伏すゴロツキたちは、まさに死屍累々の状態となっていた。立っているゴロツキは1人、ピストルを持ったゴロツキであった。


「畜生ぅぅぅ!」


 素早く銃弾をリロードして、再度トリガーを引こうとするゴロツキ。だがそれより速く、ゼファーが地面を蹴って走り出す。

 一閃。白刃煌めく刀の一撃が、ゴロツキの腹部を切り裂く。直後、おびただしい量の返り血がゼファーの顔を汚す。


「ふん……大丈夫か? マリア」


 一瞬の残心の後。ゼファーは小さく鼻をならすと、刀身に付いた血を払い刀を鞘へと収納する。そして戦闘時の冷たい表情から普段通りの表情へと戻すと、マリアへ笑みを投げる。


「うん、ありがと」


 マリアはどんな表情をすれば良いのか分からずに、そっけない態度を取ってしまう。そんなマリアの態度を見たゼファーは、笑みを崩さずに血で濡れていない手で、マリアの顎を撫でるのだった。


「ちょっと、猫みたいに扱わないでよ!」


「そんなこと言ってもな、どう見ても猫みたいだったぞ。今のマリア」


「んぁーそんなこと言わないでよ。……で何のようなのゼファー」


 マリアは申し訳無さそうな表情でゼファーへ視線を向ける。表情の理由は先程のゼファーへ行った態度のせいである。

 だがゼファーはそんなマリアの態度を気にすることなく、優しくマリアを抱きしめた。


「いいんだよそれぐらい。俺もマリアのこと考えなかったしな」


「ゼファー……私のせいでレヴィとの商談が破綻しちゃったじゃない。どうするの」


「あれぐらいで怒るレヴィじゃない。もう一回連絡して誠心誠意に謝ったら、仕事ぐらい受けてくれるさ」


 心配しているマリアを励ますようにゼファーは笑顔を保ちつつも、利き手を左右に振って問題ないとアピールする。

 それでもマリアは未だに心配そうな表情のままゼファーの指を、小さくギュッと握りしめた。そんなマリアの様子を見たゼファーは、仕方がないと言わんばかりに小さくため息をつくと、小柄で胸の豊満なマリアの身体を軽々と持ち上げる。


「ちょっと! ゼファー何をするのよ!」


「んん? ちょっと軽いぞ。ちゃんとメシを食べているか?」


「女の子にそんな言い方は無いでしょ」


「じゃあどんな風に言えばいいんだ? もっと肉を付けろとか?」


 ゼファーの挙げた例を聞いたマリアは、羞恥で頬を赤くし持ち上げられた状態でありながらジタバタと暴れる。

 急に暴れだしたマリアに、ゼファーはなんとか彼女を落とさないようにバランスをとる。


「最っ低! ゼファーならもっとスタイルを良くするとか、もっと胸を大きくすれば? とか言えばいいのよ」


「それ俺じゃなくても普通にセクハラにならないか? いや、自分で言ってもさっきの俺の台詞最低だわ……」


 自分が言った台詞にショックを受けて落ち込むゼファー。そんなゼファーを見てマリアは、フフンと胸をはり笑みを取り戻す。その際にマリアの豊かな胸は、たゆんと揺れて接触しているゼファーの身体に命中する。


「とりあえず帰るか。日も暮れてきているし。さっさと飯も食いたい」


「ふーん、じゃあゼファー私の手料理でも食べて見る?」


「お前の言う手料理は、自動調理器に材料を入れてボタンを押すだけだろ。まあ食べるけどさ、疲れてクタクタだ」


 疲れた様子をしたゼファーの言葉を聞いたマリアは、嬉しそうに鼻歌を歌い始めゼファーの腕から、気まぐれな小動物のように逃れて行く。

 並んで歩くゼファーとマリア。そんな二人を見て人は恋人のように見えるだろう。

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