マリアは何処?

 ゼファーはマリアを探して、ヴァイスシティを駆け巡る。そして自身の交友関係コンタクトから、マリアの居場所を聞き込みしていた。

 

「ディラン! マリアから連絡を受けなかったか!」


『あぁ? どうした嬢ちゃんと喧嘩でもしたか?』


「……半分いや、全部当たっている」


 申し訳無さそうなゼファーの言葉を聞いたディランは、携帯端末の向こう側でかかかっと小さく笑う。

 しかし今のゼファーにとって、誰にでも笑われようと興味はない。今の自分は1人の少女マリアを泣かせた愚かな男なのだから。


『悪いな。嬢ちゃんの居場所は知らねぇ。けど今のお前みたいに発情したオス犬よろしく、嬢ちゃんのことを聞き込みしている奴らは知っているぜ』


「何だって?」


 ディランからの別方向の情報に、ゼファーは思わず表情をしかめてしまう。マリアの情報を聞き込みをしている存在は気になる。だがしかし今のゼファーにとって、重要なのはマリアの居場所であった。


「そうか……ありがとうディラン。とりあえず頭に入れておく」


『おう、代わりに今度1杯奢れよな』


「値段は要相談で頼む……な!」


 そう言ってゼファーはディランとの通話を切るのであった。


「クソ! マリア……どこだ」


 ディランから聞いた情報。マリアを追っている何者かの存在にゼファーは、焦りの表情を見せてしまう。

 少しでも早くマリアを見つけるためにゼファーは、次の交友関係コンタクトへ当たるために携帯端末を操作する。


『どうしたのゼファーくん? なんだか焦っている様子だけど』


 携帯端末の向こう側から聞こえてきたのは、リラックスした様子のアリエラであった。おそらく音楽でも聞いていたのか、クラシックの音楽が僅かに聞こえてくる。

 のんびりした様子を幾分かこっちにくれよ。とゼファーは叫びたくなったが、なんとか我慢することに成功する。


「ええちょっと野暮用で、全速力で走ってまして」


『ふーん、まあいいや。それで要件は野暮用絡みかな?』


「まぁそんなところです……」


 アリエラの鋭い指摘を聞いたゼファーは、反射的に黙ってしまった。

 今アリエラの顔が見えなくてよかったと、心の底から思ってしまうゼファー。

 長年の付き合いを基にした経験上、先ほどの声色を出してるアリエラは、餌を前にした肉食動物のような笑みを見せて嬲ってくるためである。


『それで何が知りたいのかな。例えば、マリアちゃんの場所とか……かな?』


 探りを入れてくるようなアリエラの言葉にゼファーは、反射的に眉をピクリと動かしてしまう。もし互いの表情が見えるビデオ通話であれば、素人でも図星だと気づかれてしまうほどに、ゼファーの反応は露骨であった。


「す〜……まぁそんなところですね。マリアの場所分かります?」


 軽く深呼吸をして心を落ち着かせるゼファー。そして平静を装いながらもアリエラとの会話を続けていく。


『分かると言えば分かるね。覚えていると思うけどSEARD自体、そこまで諜報能力はない』


「ええ、それはちょっと前まで所属していた俺もよく分かります」


『でもそんなSEARDでも情報を得る手段は幾つかあるよね。例えばヴァイスシティ警察のネットワークを使うとか……さ』


 楽しげなアリエラの言葉にゼファーは、かつてSEARDに所属していた頃を思い出す。SEARDがヴァイスシティ警察に何度も煙たがれることはあった為に、情報が来ないことはいつものことであった。その時に使用した手段が、ヴァイスシティのネットワークのハッキングであった。

 ハッキングによりSEARDは、素早くそして欲しい情報をに入れることができた。


「ハッキングでマリアの情報を?」


『そそっマリアちゃんの容姿と一致している人物の情報を、集めてあげるってこと』


「正直その情報は欲しいです……何を対価にその情報をくれるんですか?」


『正直なのは美徳だよゼファーくん? 君とマリアちゃんが最近手に入れた情報が欲しいだけ。簡単な対価でしょ?』


 ゼファーはゴクリとつばを飲み込みながらも、黙りながらどうするかを考えていた。このままマリアの情報を見逃すか、それとも自身が持っているプロフェッサー・ネクロネットについての情報を渡すのか。

 答えはすぐに出た。


「わかりました。俺の持っている情報を渡します……」


『素直でいい子だね。どんな小さな情報でもウェルカムだよ』


「実は俺たち、プロフェッサー・ネクロネットの所在を掴んでいるんです」


『は……? 1年ぐらい前に私たちが逃した、あのプロフェッサー・ネクロネット?』


 ゼファーから渡された情報の大きさに、携帯端末の向こう側でアリエラは思わずフリーズしてしまう。しかしすぐに再起動し、プロフェッサー・ネクロネットについて思い出す。


「ええ、そのプロフェッサー・ネクロネットですよ」


『思ったより重大な情報だね。ちなみにどこまで掴んでいるのかな? ああ一応好奇心で聞いているだけだから』


「俺たちが持っている情報なんて、ネクロネットが50人程度の手勢を引き連れて、俺の命を狙っているとか、トロールクラスのコンバットメックを3機所持している程度ですよ」


『……んん、なるほど』


 ゼファーからの情報提供を聞いたアリエラは、音声通信のために表情が見えないが数秒ほど無言の後、少々咳きこむことで声色を整え何もなかったように装う。


『予想以上の情報提供ありがとうゼファーくん。それでいつプロフェッサー・ネクロネットへ攻め込む予定かな?』


「攻め込むなんてよく分かりますね。まぁ、2日3日後には知り合いに依頼して同時に攻め込む予定です」


『君と私の仲だからね。それにしても明日明後日ぐらいに攻め込むのか……なるほどね』


 ゼファーにはアリエラの表情が見えない。しかし長年の付き合いから今、アリエラかどんな表情をしているのかは予想できる。おそらくはSEARDが1番得をする行動を考えているのだろう。アリエラ・ネクロスとはそういう女性なのだ。


『……うん。ならSEARDは3日後にプロフェッサー・ネクロネットの戦力を削りに行ってあげる。これは契約だよ』


「いいんですか!?」


『もちろん。ゼファーくんのくれた情報は、それぐらい重大度のある情報だからね。こっちも約束どおりマリアちゃんを探すの手伝ってあげる』


 アリエラの言葉と同時に、ゼファーのサイバーアイに地図がアップロードされ、地図にはマリアと思わしき人物の居場所が1箇所、サイバーアイの地図上に表示される。

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