真相の一旦


「それじゃあ何か注文しよ。じゃないと厄介客だと思われちゃう」


「お前なぁ。まぁいいや」


 ゼファーとマリアはタブレットを見つつ、何を注文するのかを談笑しつつも考える。そして注文する物を決めるとタブレットで、商品を選択して注文し始めた。


「んでマリア、一体なにがしたいんだ?」


「ふふん。聞いてゼファー何と、ゼファーの首に賞金をかけた奴を調べて終えました。はいパチパチー」


 ゼファーの質問を聞いたマリアは、嬉しそうに笑顔で胸を逸らす。するとマリアの豊満な胸がたゆんと揺れ、さらにマリアの拍手のたびに胸は揺れていく。


「オーケーオーケー。危ない橋は渡ってないよな? 真面目な話だぞ」


「勿論。っていうかバレたなら尋常じゃない戦力が来てるはず」


 マリアの言葉を聞いたゼファーの表情は、眉間に皺を寄せて厳しいものとなる。

 そんなゼファーの表情を見たマリアは、ゾクゾクと身体を震わせてしまう。


「とりあえずさ、私の端末にジャックインしてよ」


 机に置かれるマリアの携帯端末。それにゼファーは自身に埋め込まれたコードを差し込む。

 直後、ゼファーのサイバーアイにマリアの集めた情報の数々が表示される。視界に表示された情報にゼファーは、思わず小さく感嘆の声を出す。


「どう? 結構な戦力でしょ」


「ああ、確かにハッキングがバレてるなら、今すぐにでも襲われてもおかしくない戦力だ」


「でしょう。でもアドバンテージがあるのはこっち。そしてその情報を上手く使える元SEARDの戦力ナンバーワン」


 マリアはニヤリと笑みを浮かべる。それを見たゼファーも合わせるように笑みを浮かべてしまう。

 マリアが集めた情報には、アーミーウルフが手こずる上位コンバットメックが3体、手下と思わしき人員が50名と、ゼファーとマリアの2人で勝つには、到底難しい戦力比であった。

 少なくともゼファーがこの情報を知る先程までは。


「マリア、こいつらの拠点とか分かるか?」


「んー調べたら分かるけど、どこに何人いるか正確な情報は難しいかも」


「そんだけ分かれば十分、むしろハグしてダンスしたいぐらいにな」


「オーケー任せて」


 ゼファーの発言にやる気を見せるマリアは、素早くハッキングを始める。

 その間にゼファーは、自分に賞金をかけた相手の情報を再度確認する。

 賞金をかけてきた相手の名は――プロフェサー・ネクロネット。

 かつてゼファーが捕らえた犯罪者の男で、このプロフェッサー・ネクロネットという男は、サイバー化こそが神からの賜物ギフトと称し、ヴァイスシティで詐欺行為及び新興宗教を立ち上げを行なっていた。

 その被害額、一年でおよそ9000万ドル。

 当時のプロフェッサー・ネクロネットの擁する宗教団体は、過剰な武器の所持及び戦力の保持により企業コーポからも危険視されていた。

 たがネクロネットと企業コーポの全面戦争となる前にゼファーたちSEARDが、プロフェッサー・ネクロネットの新興宗教団体の殲滅に成功。だがプロフェッサー・ネクロネットは行方不明になったのだ。


「プロフェッサー・ネクロネット……生きていたのか」


 かつて敵対した犯罪者の名前に、ゼファーは思わず頭を押さえつつも、瞳に怒りの炎を燃やす。

 だがなによりもゼファーは、取り逃がした犯罪者と対立することに、喜びを感じているのだった。

 その証拠にゼファーの口角は軽く上がり、鋭い犬歯を見せていた。


「っと、落ち着け、どの道かち合うことになるんだ。なら直接会ってから勝って笑ってやればいい」


 自身を落ち着かせているゼファーの横では、マリアがハッキングに集中している。

 マリアのハッキング集中度合いは凄まじく、真向かいのゼファーの様子に、全く反応しない程であった。


「ご注文の商品をお持ちしました」


「あ、全部テーブルに置いてください」


 そうしている内にゼファーとマリアの注文した商品を、カフェテラスの店員が持ってくる。

 コーヒー2つ、ハムカツサンド2つが、ゼファーたちのテーブルに置かれる。

 だがその間にもマリアはハッキングに集中しており、全く料理に視線を向けることをしない。


「集中するのはいいことだがなぁ」


 マリアの集中力に思わず称賛の言葉を出したくなるゼファーであったが、もし出したとしてもマリアはゼファーの言葉に反応しないことは明白である。

 集中してるマリアを余所にゼファーは1人、注文したカツサンドを手に取った。

 カツサンドのサイズはかなり大きく、ゼファーの両手でも持ちきれない程の大きさである。


「いただきます」


 そんな大きいカツサンドを前に、ゼファーは一口に入る大きさへちぎると、そのままガブリと一口で食べ始める。ムシャムシャとカツサンドを食べれば、口の中に合成肉とソースの味が広がっていく。

 不味くはないカツサンドの味に、思わずいい店だ。とゼファーは心のなかで採点し、また来ようと思うのだった。


「あーゼファー、先に食べてる!」


 そうしてゼファーが食事を続けている間に、マリアもハッキングが終えたのか、物欲しそうにゼファーとカツサンドを指差す。


「冷めると不味くなると思ってな、先に食べさせて貰ったぞ」


「うーん私も食べる。いただきます」


 マリアはカツサンドを手に取ると、両手で持ちきれないカツサンドへガブリと噛みつく。だがマリアの小さな口でカツサンドを食べきるのは難しいものであった。


「う゛ーがみ゛ぎれ゛な゛い゛」


「ほら手伝ってやるよ。動くなよ……ほい」


 口にカツサンドを咥えて噛み切れないマリアの惨状を見たゼファーは、「はしたない」と小さく呟くとカツサンドをちぎってやる。

 一口サイズになったカツサンドを、ハフハフと頬張るマリア。そんな彼女をゼファーは生暖かい目で見ているのだった。

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