はなれない

 勝者は……帝王。キューターリーフは、帝王の前にたおれた。


「アオバっ!」


 私は弾けるように走りだしていた。横たわるキューターリーフのそばにしゃがみこむ。


「はぁ、はぁ、は……」


 苦しそうに息をするキューターリーフ。ヨロイがくだけて、体に深いキズができている。


 私は、背中に手を回す。


「なんで、なんでっ? ずっと勝っていたのに、急に……!」


「キューターリーフが弱いから。それだけだ」


 冷たい声が、頭のすぐ上から降ってくる。


 帝王が、私とキューターリーフを見おろしていた。


「どけ。そいつに、止めをさす」


 帝王が私に命令する。それだけで、私は背筋がこおる。


 怖い。死にたくない。にげたい、にげたい!


「いやだ」


 でも、私は言っていた。


 腕の中のキューターリーフを、力いっぱいだきよせる。


「もう、約束は破らない。私は、アオバからはなれない!」


 がたがたふるえた声で、私は帝王にさけんだ。帝王から目をそらさない……!


「ならば、もろとも切りすてる」


 帝王が、私に向かって剣を下ろす。


 絶体絶命の状況で、私はぎゅっと目をつむって、リモコンをにぎった。


「アオバ……!」


 次の瞬間、私たちは光に包まれた。


「!」


 目を開けた私は……冷たいお城の床ではなく、美しく整えられた庭の芝生の上に座っていた。


 腕の中にいる、キューターリーフといっしょに。


 見上げると、壁には双葉の芽から生える剣の紋章が彫られている。


 ここは、リーフェスタ王国のお城の中……?


「運が良かったナ、メイ」


 と、リドリィが私の頭の上に立って、笑っている。


「オマエがとっさに押したのは【世界跳躍スキップ】。光を当てたものを、来たことがある場所まで瞬間移動させることができるんダ」


「私と、私がさわっていたアオバが、飛んだってこと……?」


「そうサ。イヤァ、危機一髪だったナ!」


 リドリィは楽しげにしているが、それどころじゃない。


 腕の中のキューターリーフは、ボロボロだった。


 剣はぽっきり折れている。ヨロイも割れて、服は泥だらけ。やがて私の腕の中でキューターリーフの変身が解けて、アオバにもどった。


「う、う……」


 アオバの顔は真っ青。にぎっている手も血が通っていないのか、冷たい。


「アオバ、アオバ……」


 私はなにもできず、ただアオバの名前を呼ぶ。


 そのとき、ドレスの少女が見えた。


「メイ様に……アオバっ?」


 現れたのは、アカネ姫だった。


 アカネ姫のうしろから、王国の兵士さんたちがぞろぞろとやってくる。


「アオバ様だ! コカゲ帝国から帰還された!」

「ひどく負傷している! 早く手当てを!」

「潜入していたはずが、なぜいきなり……?」


 お医者さんたちがアオバを囲む中、アカネ姫もアオバの反対側の手をつかんだ。


「アオバ! お願い、返事をしてっ!」


 アカネ姫はのどをつぶすほどの大声で、アオバに呼びかける。アオバのそばに膝をついて、ドレスが土に汚れてしまうことなんて気にしない。


 アカネ姫がなんども呼びかけたおかげで、ピク……と、アオバの手が動いた。


「アオバ!」


 私とアカネ姫が、同時に顔をのぞく。


 アオバが真っ青の顔で、目を開ける。


「アオバ、わたくしがわかりますかっ? アカネですよ、アオバ!」


 アカネ姫の呼びかけには答えずに、アオバは、ゆっくりと私を見あげた。


「……メイ、は、無事?」


 苦しそうな声。私はうなずくことしかできない。


 アオバは、私に笑いかける。


「よかった。もう、ボクからはなれちゃダメだよ」


「……!」


 その言葉を残して、アオバは気を失った。

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