私はスパイじゃありません!

 アカネ姫が、整った形の眉をぎゅうっとミケンに寄せて、私を見る。


「メイ様、でしたか? ……なぜ、そこまでわたくしにくわしいのでしょうか?」


「はい?」


 私、なにかおかしなことを言った?


 周囲の兵士たちは私を遠巻きにながめて、ひそひそと話をしている。


「アカネ姫が剣術をたしなむことは、国家機密だろう?」

「王国兵との稽古など、城の外に出したことのない情報だ」

「もしや、内情を探りに来たスパイなのか?」


 疑惑は一気に広がって、とうとう私は、剣や槍を持った兵士に囲まれてしまった。


「ちょ! スパイとか、そんなつもりじゃ……!」


「ならば、なぜ! 王国の秘密を知っている!」


「それはっ!」


 ……と、言葉は続かない。そりゃそうだ。


 アニメで観たからなんて、言えないし!


 だまっていると、剣と槍はじりじりと近づいてくる。また、絶体絶命っ?


 青ざめる私を守るように、アオバが立つ。


「申し訳ありません」


 アオバはしゃきっと姿勢良く、頭を下げた。


「ボクが、アカネ姉さんの武勇伝を客人に語ってしまいました。自慢の姉のことは、ついついしゃべりすぎてしまったのです」


「えっ」


 私は別に、アオバにはなにも言われていない。勝手にアニメで観ていたことを、語ってしまっただけだ。


 ちらっと見ると、アオバは私にこっそりウインクをしてきた。


 アオバの機転のきいたウソのおかげで、兵士たちは武器を下げて、アカネ姫はにっこりと笑ってくれた。


「もう、アオバったら。わたくし、そんなお世辞は教えていませんよ」


 かわいい……。

 なんて見とれていると、アカネ姫も私に向かって、美しくお辞儀をしてくれる。


「改めまして、メイ様。リーフェスタ王国はあなたを歓迎いたします。どうぞ、おくつろぎください」


 私はアカネ姫とアオバを交互に見る。礼儀正しい姿はとっても似ている。きょうだいなんだから、当たり前だけど。


「さ。案内するよ、メイ!」


 アオバは私の手を取って、どんどん歩いていく。緊張しっぱなしのまま、私はお城の中に入っていった。

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